とうとうこの日が来てしまった。今月の献立表を見たときからコレがあるのはわかっていたけれど、ついにご対面してしまった。
 おぼんを持って席に戻りながら、脳内ではどうやってコレを味わうことなく飲み込むかシュミレーションする。まず、かき卵と一緒に少しだけ口に入れて、その後噛まずにご飯を詰めて、水筒のお茶と一緒にごっくん……だめだ。喉に詰まりそうだし、咳き込んで吹き出したりしたら大変なことになる。そもそも、一緒に混ざっている時点で卵も味が浸透しているからアウトだ。鼻を摘んで頑張って噛む?そんなみっともないところをみんなに見られでもしたらコレで苦しむどころの話じゃない。どうしよう!
 
「名前どうした?」
「み、宮城くん……」
 
 座ったわたしから見た立った宮城くんはとてつもなく大きい。同じようにおぼんを持った宮城くんを見上げたわたしは宮城くん曰く、「死にそーな顔してる」らしい。
 
「腹痛い?保健室行くかー?」
「ちがっ……!ちがうちがう!」
 
 変な勘違いをされたくなくて必死で否定した。そして、例えお腹が痛いとしてもそんな恥ずかしいこと、宮城くんには死んでも言わない。
 
「食べれないのが、あって……」
「食べれない?どれ?」
 
 おぼんに並ぶ、牛乳とご飯、アーサ汁。そして、ゴーヤチャンプルー。わたしはそっと指を指した。
 
「ゴーヤ……」
「あー。苦いから?」
「うん……」
「卵は?」
「む、むり。味染みてるもん」
 
 言ってから、恥ずかしくなった。だって、宮城くんが笑ったのだ。しかも、眉を上げて、いつもよりちょっと意地悪な笑い方だった。きっと、一年生だって食べられるのに六年生のわたしが食べられないなんてダサいって思ったんだ。こっちの子達は慣れてる味だろうけど、わたしにはどうしても無理な味なのに!ああ、言わなけりゃよかった!
 
「う、うそ。食べれる。たぶん」
 
 取り繕ってみたけど、もう遅い。恥ずかしくて顔が真っ赤になっていくのがわかる。変な汗も出てきた。最悪だ、と思っていると、宮城くんはぐるっと周りを見渡したと思ったら「貸して」とわたしのお皿を取った。「えっ」その素早い行動に驚いている間に、宮城くんは自分のお皿にわたしのゴーヤチャンプルーを移した。ただでさえ、「どーせソータは一番に食べ終わっておかわりするだろ」と給食当番が前もって多めに盛っていた宮城くんのお皿が山盛りになる。
 ぽかんと口を開けてその様子を見ていたわたしのおぼんに宮城くんはお皿を戻した。空のお皿がわたしのおぼんに寂しそうに乗っている。
 
「いんちきー」
 
 得意げで、やっぱりちょっと意地悪な顔をして宮城くんはそう言うとうしろの席に座った。
 
「みなさん手を合わせてください。いただきます」
 
 給食当番の掛け声でみんなが食べ始めるなか、わたしは空になったお皿を見つめていた。いんちき。ズルをしてしまった。なのに、むずむずする気持ちが込み上がってきて、思わず顔が緩んだ。宮城くん、また助けてくれたんだ。
 そっと後ろを振り返ると、大きな口でゴーヤチャンプルーを食べていた宮城くんが「ん?」と首を傾げた。もうお皿が半分くらいになっていて笑えて、なんだかそんなノリで今日は自然に「宮城くん、ありがと」と言えた。宮城くんがくれる優しさに対して、わたしは初めて感謝を伝えられたような気がする。
 宮城くんは「しー」と唇に指を当てる。「先生にバレたら怒られんど」と笑うとまた大きい口を開けてゴーヤチャンプルーを食べた。


 
2023.3.3

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