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指先に引っ掛かる永遠

お前は気まぐれすぎる。猫のように俺を翻弄し、惑わし、捕まえたと思ったら手をすり抜け逃げてしまう。


それでも欲してしまうのは何故だろうか。と、恨めしく思いながら膝の上ですやすやと寝息をたてる人物を見下ろした。


(…さて、こいつをどうしようか…)


神宮寺が今、俺の膝枕で寝ている状況に溜め息が零れた。



先に引っ掛かる永遠



「おい、神宮寺。起きろ」

「っん…?あぁ、おはよ、聖川」

「何がおはよう、だ。人様の膝で勝手に寝よって」


上体を起こして呑気に欠伸をする神宮寺をきっと睨み付けたが、やれやれと言った風に軽くあしらわれた。


「嫌なら振り落とせば良かったのに。素直じゃないねぇ」

「む……」


苦笑混じりに放たれた言葉に核心を突かれ、次の言葉に迷ってしまう。
確かに無防備に寝ていた以上、振り落とすまでしなくともこの場から離れることなど容易かった筈だ。
しかし、現実はこうして起こすまで離れられなかったのだ。嫌か否かなど分かりきっている。


考え込んでいると、「図星かい?可愛いねぇ真斗くんは」などと茶化す声が耳に入って来たので、仕返しとばかりに頬を摘まんで引っ張ってやった。
痛い痛いと言って嫌がる目の前の端整な顔が自らの手で滑稽な形に歪められる。


だがそんな戯れも長くは続かず、神宮寺は再び膝に頭を戻し、指が虚しく空を切った。


「どうした神宮寺」

「ごめん…眠くなってきた」

「貴様、また俺の膝で寝るつもりか」

「別に良いだろう?減るもんじゃないし」

「俺の時間が減るのだが。さっさと自分のベッドで寝たらどうだ」


流石にこれ以上は付き合ってやれない、と肩を揺すって起きるよう促すが、あろうことか神宮寺は腰に手を回してしがみついてきた。


「いや、ここが良い。ここじゃないと駄目、寝られない…」


甘い声音で呟いて俺の腹に顔を埋め、すんと鼻を鳴らす。
いつも素っ気ない神宮寺の、恐らく初めて見る甘えた姿に酷い目眩を覚える。
何かしてしまいそうなくらいに昂る感情を抑えるように、もぞもぞと動く黄橙の髪を梳いた。


「お前は良いかも知れんが、正直俺の方が持たん。何をするかわからんぞ…?」

「はっ…。できるもんなら……やって、みろよ…」


冗談ではあるが半ば本気の口調で言えば、すぐに返事が返ってきた。だが強気な言葉とは裏腹に語尾が弱く間延びしている。もう眠気に耐えるのが限界なのだろう。
それから然ほど経たない内にまた寝息が聞こえてきた。




(一体どうしたものか…)


先程とは違いしっかりと抱き締められているため、最早神宮寺を引き離すことは愚か身動きすらできない。
しかし、やはりと言うべきか、もう一度起こす気にはなれなかった。


いつも眠りが浅く朝に滅法弱い神宮寺を安易に起こすのは躊躇われたのもある。
だがそれ以上に、いつもつれない態度をとる神宮寺が今この瞬間は俺だけに甘えてくれている。それがとても嬉しかった。
覚醒してしまったら平素の彼に戻ってしまうのではないかと考えると、今はこのまま一時の幸福を噛み締めても良いのかもしれないと思ったのだ。


「仕方ない、今日は特別に好きなだけ膝を貸してやろう。感謝するんだな。……おやすみ、レン…」




この瞬間が永遠であって欲しいと願いながら、優しく頬に口づけた。



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企画『アメジストに恋をして。』に提出した作品です。

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滅多になつかないレンに萌える




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