小説 | ナノ

Don't get near me!!

ポッキーの日ネタ
どんとていくおふいっとの設定そのまま
ありきたりすぎてごめんなさいでもおっとき大好きだ




「ねぇねぇトキヤ」

また来た。と瞬間身構えてしまうのは彼の魔法の言葉に条件反射してしまうようになったからだ。

音也が「ねぇねぇ」と話しかけてくる時はろくなことが無い――というのは最早周知の事実で。宿題の手助けを乞われたり、歌を強要されたり。HAYATOの真似を要求されたこともある。最近ではコスプレと称してセーラー服を着せられたかと思えば、すぐに剥かれたこともあった。
どうでも良いことで呼び出しては私の大切な時間を、精神力を削っていくことが殆どだ。
そして今回の頼みもまた、相当、かなり、恐ろしく、くだらないことに違いない――というか、手に持っている袋から見える、お馴染みの赤い箱が全てを物語っているのだが。
私もいつものように溜め息の如く大袈裟に息を吐いて、そして吸って。

「ポッキーゲームですか。バレバレですよ」
「勿論トキヤもやるよね!!」
「私に拒否権は無いのですね」
「てか一人じゃできないし! ……ね、お願い?」

もう一度溜め息。やはりというか何というか。
このやり取りももう慣れっこである。キラキラとした笑顔に潤んだ瞳はまるで天使のようなのだが、本性は根っからの悪魔。この顔に騙されて何度酷い目に遭ったことか。彼には翻弄されないことの方が少ないから、「ぎゃふん」と言わせてやろうと日々機会を伺っているのだが、大抵は伺うだけで終わり、それどころか「ぎゃふん」と言わされる。本当に不快だ。
しかし一番不快なのは最終的に流されてしまう自分の意思の弱さかもしれない。ごり押しされると抵抗できなくなる辺り、だいぶ音也に毒されてしまった。

「ほら、今日って11月11日じゃん? 全国的にポッキーの日じゃん? じゃあやらないと!」
「じゃあ、って……。ただのお菓子メーカーの陰謀ではないですか」

爛々と眸を輝かせる音也とは違い、私は企業戦略に易々と乗るような軽い人間ではない。それに甘味の摂取はカロリーコントロールの観点から最低限に控えなければいけない。チョコレートなんて砂糖と油の凝固物を口にするなど、もっての他だ。

「まぁまぁ気にしなーい。偶の一日くらい平気だって! ん〜っ」

私の切実な事情を音也なんかが考慮してくれる筈もない。端から異論を聞く耳を持たないから。性急に箱を、次いで袋を開けてポッキーを取りだし、咥える。そして徐に此方に向かって歩きだした。

「ん〜〜〜」
「何ですかやめてください気持ち悪いです咥えたまま近寄らないでくださ……っ!」

本能で危険を察知した。今の音也に捕まってはいけない。やっていることは如何にも馬鹿丸出しで間抜けとしか言えないのだが、にへらっとしたアホ面の、双眸だけが本気の色を呈しているのである。
暫く小競り合いを繰り返していたが、突然背中に衝撃が走った。「えへへ、捕まえた!」と、音也が妖しい笑みを浮かべながら顔の横に両手をつく。
どうやら後退りしているうちにうっかり壁に追いやられてしまったようだ。いわゆる壁ドンの状態で四方を塞がれ、逃げ場は何処にもない。
ひた、と唇に僅かな感触。軽く触れる冷ややかな棒の先には恍惚とした表情。
『ねぇねぇトキヤ』と。赤く丸く大きく可愛らしく、熱を孕んだ目が私に語りかける。

――ねぇねぇトキヤ、もう逃げられないよ。拒否なんて許さないよ。ポッキーゲーム、トキヤなら喜んでやってくれるよね?

本当に不快だ。ここまでしておいて手綱を私に渡すのか。彼が『ねえ、』と魔法をかけた時点で答えは一つなのに。
どうして私はこれ程までに彼のこの言葉に弱いのか。
もうどうにでもなれ。苦笑してチョコレートの尖端に歯を突き立てた。



づかないで!!
(ねぇねぇトキヤー)
(口と口、ついた……)




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