小説 | ナノ

ひだまり/ハルル さま

目の前で瞳をキラキラと輝かせ楽しそうに曲の事を語るナマエの声に耳を傾けつつ相槌をうっていた俺は、ふと鞄からある物を取り出しナマエへと手渡す。脈絡もなく手渡されたそれに驚愕の意を浮かべたナマエと視線がぶつかった。



「ナマエ、お前にこれを…」


「わぁ、素敵…。ありがとうございます、真斗くん」



まるで宝物を手にしたかのようにナマエがぎゅっと握り締めたそれは、手製のハンカチ。いくら手製といっても刺繍を施しただけなのだが、それでもナマエは容貌をふにゃりと綻ばせ喜悦に満ちた表情を浮かべる。その笑顔に釣られ俺の頬までもが緩んだ。



「あの、真斗くん、聞いてもいいですか?」


「何だ?」


「どうしてこんなに素敵な物を私にくれたのかな、って」


「それは……」



一呼吸置き、たまには何か贈りたかっただけだ、とそう呟く。本心ではあるけれどそれだけではない。照れ臭くなり言葉を濁すも、ふわりとはにかむナマエを視界に捕えただけで俺の鼓動は加速した。贈り物をするきっかけなど些細な事で構わないだろう。俺は事の発端となった数日前の出来事を鮮明に思い返した。


それは、何の前触れもなく脳内を駆け巡った思想。

“ナマエにはいつでも笑顔でいてほしい”

そんな思いから瞬時に机へと向かい始め、普段身に付ける事ができ使い勝手のよい最良の物は何かを思案したところハンカチという結論に至ったのだ。

何をするべきなのか、一度結論を出してしまえばその後の動きは簡単だった。刺繍を施す為カチカチと響く秒針の音響と比例させるかのように指先を動かしていく。一針一針丁寧に縫う微細な作業に骨が折れそうになるも、愛しい恋人の笑顔を思えば自然と作業も捗った。反射的に笑みが零れるのもまた必然。半分程作業が終了し思わず目頭を押さえると背後からは、お兄ちゃま、と煩ったような真衣の声が聴覚を満たした。不慮の出来事に肩を震わせゆっくりと振り返れば、そこには昨夜から俺の元へと外泊をしていた真衣が安堵のため息を零す。



「真衣…何かあったのか?」


「真衣、遅くまで起きてるお兄ちゃまが心配だったの」



真衣の言葉に思わず時計を横目に確認すれば既に翌日を回っていた。微細な施しは時をも感じさせない。故に、これほどまで深夜に達していても気に留めずにいたのだろう。俺が刺繍を施しているのは胡蝶蘭。勿論、安易ではないが完成後の出来映えは素晴らしいものとなる筈だ。
もう寝た方がいい、という俺の発言に最後まで首を縦に振ることのなかった真衣に困却し背後で見守られつつ作業を進めた結果、その1時間後に全て完成を遂げた。それは思わず瞠若してしまう出来で。静観をしていた妹に報告を試み背後を振り返ったけれど睡魔が襲っていたようで眠りの世界へと堕ちている真衣の姿が視覚を捕える。ありがとう、と一言呟き真衣の隣へと腰掛けその日は共に眠りに堕ちた。


そして、数日経った今日、丹精込め刺繍を施したハンカチをナマエへ手渡せば俺の求めていた笑顔。お前のその笑顔が見たかった、など少々気恥ずかしく言えないけれど代わりに微笑み返す。俺の気持ちは伝わっているのだろうか?とそんな事を思いながら。

――胡蝶蘭の花言葉は、幸福そして、貴女を愛します。



これから先も些細な幸せが続きますように
(互いの微笑みから感じ取れるのはそんな感情だった)



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ハルちゃんから誕生日プレゼントとサイト2周年記念と相互記念としていただきました。
サプライズで、さらに夢小説のプレゼントは初めてだったので物凄くテンション上がりました…真斗イケメン…!
これからもstk道を貫いて欲しいな(笑) 素敵な作品ありがとうございました!




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