11.風間蒼也と私と諏訪。

風間は今までも優しい人だった。

しかし、”彼氏”という肩書きになってから、風間が変わった。









「おはよう。」

「あぁ、おはよう。」

1限の教室で風間に会うと、風間の隣に座った。

指定席ではないが、いつも座っている席に座る。

少し真ん中の列の真ん中の席。

前でも後ろでもない微妙な席は、風間とみょうじは気に入っていた。


チラリと風間の横顔を見る。

端正な顔立ちをした横顔が見えた。

その横顔に少し見とれたあと、風間に話しかけた。

「今日、テスト範囲発表するっけ。」

そう、問いかけると、その端正な顔立ちをした風間がこちらを向いた。

「いや、来週だ。」

いつも通りの真顔で答える。

「あ、そうだっけ。」

「あぁ。忘れるなよ。」

そう言い、風間はみょうじのほうを見ないで前を向いた。

もう少し話したいな、と思っていたが授業が始まってしまった。






「っ、」

授業が始まったと思ったら、風間がどこからも見えない机の下でみょうじの手を握ってきた。

「これで満足か?」

風間は顔を前に向けたまま、私に顔を近づけ囁いた。

コクリとうなずくと、風間は返事をする代わりに少し強く手を握った。




風間は私のことを分かってて、行動してくれる。

その行動一つ一つが優しくて、今までとは違う優しさに好きという気持ちが好きになる前よりあふれていた。















「お前ら最近ずっと一緒にいるな。」

それは大学の廊下で諏訪に会ったとき言われた言葉だ。

諏訪は風間とみょうじが2人で廊下を歩いている姿に出会い、文句を言った。

「あぁ。」

風間は表情を変えずにただそれだけ答えた。

「だって離れる理由もないし。」

みょうじも2人の仲をもう既に隠す必要が無いと思い堂々としていた。

風間と今まで一緒にいたが、恋人同士になる前よりも明らかに一緒にいる時間が増えた。

手は握ってはいないが、2人の距離が近いことは明らかだった。

「だからって、ラブラブモード全開じゃねぇかクソリア充が。」

諏訪はため息をつきながら2人をまじまじと見る。

「うらやましいか?」

「はぁ!?うるせーな。」

「みょうじはやらないぞ。」

「いらねーよ、バカが。」

諏訪が「いらない」という言葉を発すると風間の眉がピクリと動き、眉間に皺が寄った。

「いらない…?みょうじの良さを分かってないな、お前は。」

諏訪は風間の怒りを察し、めんどくさい、という言葉が顔に出た。

みょうじは、「あ、やばい。」と心の中で思い、焦りを感じた。

「どうせお前「いる。」つっても怒るだろ!」

「あぁ。」

「なんなんだクソが。」

「風間、やめて。恥ずかしくて死ぬ。」

牽制しなければ風間がひたすらみょうじのことを語ることを分かっていた。

風間は今までみょうじのことをからかう場面があったが、他人がみょうじをからかうことに対しては敏感であった。

しかし今は異常である。みょうじのことをからかうことが減り、他人がみょうじをからかっていると途端にケンカ腰になるのが一目瞭然だった。

そうなるとただひらすらみょうじのことを語り続ける。

太刀川がみょうじの身長のことをからかったときも、以前ならみょうじがテキトーに怒るところだったが…



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トリガーを起動させた風間がじりじりと太刀川に近寄る。

かつて無いほどの怒りを風間から感じる太刀川は後ずさりして、怒りを鎮めようとしていた。

「風間さんストップ!風間さん!?どうしちゃったの!?」

「ちょっと、風間!なんでアンタそんなに怒ってるの!」

みょうじが風間を後ろから手を引いて止める。

みょうじが風間に触れると、風間はピクリと体が動き、止まった。

「みょうじ、何でお前は怒らない。」

みょうじのほうに振り返り、風間は言った。

「私よりも先に風間が怒ってるからだよバカ。」

みょうじは子供をあやすように風間の肩を持ち、体を自分と向き合わせてため息をついた。

「別に私の身長はもうどうにもなるもんじゃないでしょ!それに今までアンタもからかってたじゃん。」

「今は今、昔は昔だ。お前が俺のものとなった以上、お前を侮辱するやつは許さない。」

「なっ……。」

風間の俺の物発言につい顔が火照ってしまう。

太刀川は尻餅とついていた体を起こして立ち上がった。

「俺もう帰っていいですか。」

突然のリア充オーラに苦笑いの太刀川。

正直みょうじも人前で勘弁してほしい、と思っていた。

「あーいいよいいよ、まじごめん。」

太刀川のほかにリア充オーラを察した隊員たちがいつの間にか休憩室から消えていた。

察しの良い隊員たちで本当に良かった、とみょうじは思った。



風間はトリガーをオフにして元の姿に戻る。

みょうじは風間をとりあえずソファに座るように言い、みょうじ自身も隣に座った。


「風間、キレすぎ。」

「言っておくけどな、俺は普通だ。」

「どこが!?もう、どんだけ私を守ってんの…。」

にしても異常だ。

しかし風間はみょうじの言葉に反応した。

「俺は今までお前を守ってきた。体が弱いお前を苦しませたりしてきた。俺は自己嫌悪になっていた。お前のことを守りたいけど、俺はお前の隣にいていいのか、って思ってきた。」

憎まれ口を叩きつつも、確かに風間はいつも体が弱いみょうじを気にしてくれていた。

「そんなに風間を悩ませてただなんて…。」

みょうじは小さい声で「ごめんね。」と言った。

「別に俺がやりたくてやっているからいい。今まではお前の隣にいることが不安だったが、今は違う。」

風間はみょうじののほうに体を向け、抱きしめた。

「今は俺の大事な恋人だ。お前を守る権利がようやく与えられた。今まで以上にお前を守って何が悪い。」

開き直り、拗ねている子供のようにみょうじのことを少し強く抱きしめる。

「嬉しいけど、やりすぎ。」

みょうじは自分を強く抱きしめ、肩に顔をうめる風間の背中に手を回し、抱きしめた。

「いいだろう、別に。こんなんじゃまだ足りないぐらいだ。」

「まじかよ〜。」

笑ってみょうじは風間の背中をぽんぽん叩く。

「ありがとう、風間。」

「礼はいいからもっと俺に甘えろ。」

「え?」

風間は顔をあげ、じっとみょうじを見た。

下からの上目遣いにみょうじは胸が高鳴った。

「いつも俺ばかりお前を欲しがっているだろう、お前からきてくれないと不安になる。」

「……だって、甘え方とか、よく分かんないし。」

風間から目をそらして、口ごもる。

「そういう可愛いこと言うな。」

風間はみょうじの頬と肩を少し強引に自分に寄せ付け、唇を塞いだ。

「んぅ…っ、」

「っ、はぁ…。」

いつもより激しいキスは2人を熱くさせた。

風間の舌がみょうじの唇をなぞり、みょうじはびくっと反応する。

しかし風間はそこで唇を離した。

キスに慣れていないみょうじでも少し物足りなく感じた。

「風間…?」

風間はみょうじから手を引き、そっぽを向く。

「ここでは駄目だ。また家帰ったらな。」

そう言い風間は立ち上がり、休憩室から出ようとする。

「俺は任務もある、お前もまだ仕事があるだろ。」

「そう、だね。」

二人っきりとはいえ、本部でこんなことをしていた自分が恥ずかしくなった。

「今やってしまうと我慢ができなくなるからな。続きは楽しみにとっておくものだ。」

「っ!」

フッと笑って言い去った風間に「やられた。」と思った。









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「そういえば、あの後俺が帰ってきたらお前寝てたな。」

諏訪と別れたあと、家に帰るために駅から歩いていたら風間は思い出すように言った。

「いやー、あの日いい研究成果が出て集中してやったら疲れちゃって。」

「ったく…。」

風間はふう、とため息をつく。

みょうじはそんな風間に少し我慢させてしまったかな、と思った。

「ごめんって、」

みょうじはそう言い、風間の頬に優しく口づけた。

「!」

「…。」

風間は目を開き、みょうじのほうを見た。

「…これで、許してください。」

「…。」

風間は目を細め、黙った。

「無理だな。」

「え、」

「家帰ったら覚悟しておけ。」

「え、え、ちょっ、はやい!」

風間はみょうじの手を掴みズンズンを進み、歩くスピードを速めた。





 
 
 



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