▼アラン が かべどん してきた!  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ※恋人 「おい」 廊下に響いた声が誰のものかなんて振り向かなくても分かる。呼び止められたその声にびくっと背筋が伸びたけれど覚悟を決めてゆっくりと振り向けば、 不機嫌そうな顔をしたアランがいた。 「アラン、あの、久しぶり……?」 「お前が俺を避けるから久しぶりになるな」 (怒ってる……!) ピリピリしているアランが大股で近寄ってくるから思わず後ずさってしまった。廊下の角まで追いやられて、とうとう背中に壁が当たり逃げられなくなった私と、無言のまま距離を縮めたアラン。右腕を片手で掴まれて、一体何なのかと不思議に思う暇なくアランのもう片方の手が顔の真横に置かれた。 「逃げらんねーからな」 完全に退路を断たれて冷や汗をかく私を、アランが間近で見下ろす。 「で、俺を避けた理由は?」 「あの、言わなきゃダメ?」 「……やっぱり避けてたのかよ」 悲しそうに顔をしかめたアランを見て、自分がしたことを反省した。そんな顔をさせたかった訳じゃないのに。 「……ごめんなさい」 「俺のことが嫌になったなら、ちゃんとそう言え」 「嫌じゃない! 私、アランのこと本当に好きだよ!」 「……なら、なんでだよ」 みるみる頬が赤くなっていくアランが少しだけ安心したように声を柔らげた。不安にさせてしまった申し訳なさで、自由のきく片手でアランの服をぎゅっと掴む。 「明日、アランの誕生日だから……」 隠し通してこれ以上不安にさせるなんて出来なくて、ここ数日アランを避けていた理由を明かした。 「喜んでもらいたくて、色々と準備してたの」 「誕生日……」 「バレちゃうと驚きが半減すると思って……。ごめんなさい」 顔を伏せてアランに掴まれた腕を見る。徐々に力の抜けていく拘束が、今度はするりと指を絡める形へ変わった。 「……俺のためかよ」 頭上から降る安堵の声に嬉しさが滲み出てる気がする。アランの気持ちを置いてきぼりにして、自分のやりたい事ばかりしてきた数日を反省した。 「誕生日って言っても、俺はお前が……、セレナが居れば別に良い」 真横に置かれていたアランの手が私の顎を持ち上げたせいで、彼とぱっちり目が合う。 「これからはちゃんと側に居るって約束するか?」 熱のこもった視線にあてられて返事が出来ないでいる私へ、焦れったそうにアランが顔を寄せた。お互いの息がかかりそうな程の近さでアランが口を開く。 「……早く」 「約束するからっ……!」 この距離は心臓に悪い。そう思って逃れようとする私の台詞を最後まで聞かず、アランがちゅっと音を立てて唇にキスをした。 「まぁ、嫌だって言っても離してやれねーから」 ぼそりと呟くアランの言葉に頭がくらくらしてきて、ここが廊下だとか、いつ人が通るか分からないとか、そういったこと全部抜け落ちて流されそうになる。顎にかけられていた手が首の裏に回された。 「こそこそ準備してたのもちゃんと明日受け取るけど、とりあえず今日は俺の好きにさせろよ」 会えなかった分埋めとくから、と少しだけ照れたように付け加えたアランが愛しくて、幸せな気持ちで頷く。 そんな私にアランが二度目のキスをした。比べ物にもならないぐらい深く、長いそれは、おまけと言わんばかりに上唇をやんわり吸うように離れた。 「……部屋、行くか」 脳が溶けるようなキスに上手く頭が回らないでいる私を見つめてアランが言う。 「このままじゃ今日だけで済まないかもな」 たっぷり時間をかけて埋めるから、という意味を含ませた言葉が鼓膜を震わせて、もういよいよ何も考えられなくなったのだ。 fin*1/23 |