君にしか出来ないこと
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 「して欲しいこと?」

 アランからの急な問いかけを聞き返す。 返事の代わりに差し出された手を取ると、ベッドの淵に腰掛けた彼に隣に座るよう促された。

 「あぁ。何か俺にして欲しいこと、ないのかよ?」
 「して欲しいことかぁ……。なんでまた急に?」

 アランを次期国王に宣言してからというもの、お互いに忙しさが増してなかなか予定が合わなかった。
それが今日、ようやく時間を作れたのだ。久しぶりに落ち着いて話が出来ると思っていたけど、会ってすぐの台詞を繰り返すあたりアランは何か考えているようだ。

 「お前、最近頑張り過ぎ。……息抜きさせてやるのも俺の役目だろ?」

 俺の役目、とはつまり恋人の役目ということで。騎士や次期国王という肩書きとは別のそれを実感して、嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 「……アランが一緒にいてくれるだけで十分だよ」
 「なんだ、安上がりだな」
 「そうかな? ウィスタリアの騎士団長で次期国王のアランを独り占めするんだから、とっても欲張りだと思う」

 言いながら隣を見れば、アランの口角が少しだけ上がっている。

 「なら、この国のプリンセスを独り占めしてる俺も欲張りになるな」

 自分に注がれる穏やかで優しい視線。好きな人が側に居てくれると、こんなにも幸せな気分になれるなんて。それを教えてくれたアランが、私の顔を覗き込んだ。

 「でもあんま無理すんなよ。俺に出来ることがあったら遠慮せず言えば良いからな」
 「ありがとう。……ね、私も忙しいアランのために何か出来ないかな?」
 「俺に?」

 先程とは逆に、今度はアランが私の言葉を聞き返した。

 「そう。私にして欲しいことない?」

 考え込んだ彼がふっと笑う。何か思いついた悪戯っ子みたいに。

 「なら、お前からキスして」

 きす、と呟いた。そうか、キスね。うん。
 いつもなら恥ずかしくてなかなか出来ないけど、今日は自分から聞いたのだ。その結果して欲しいことがキスだというならもうするしかない、と意を決してアランの頬に自分の唇を押し当てた。

 「……これで良いかな?」
 「……あー、……お前ほんとずるい」

 目元が赤くなったアランが私から視線を外して天井を見た。そわそわした雰囲気に、なんだかキスする前より恥ずかしい。

 「なんで言ったアランが赤くなるの……」
 「……まさか本当にされるとは思ってなかったんだよ」

 冗談で済ましてやれなくなった、なんて独り言みたいにアランの口から溢れ落ちたのを確かに聞いた。

 「……続き、するか」

 再び私を捉えた視線が、これまでより熱を帯びている。独り言ではなくて、今度のは確実に私へ向けて発せられた言葉だと分かってしまった。そう感じてしまえば、じわじわと身体中熱くなって、なんだかアランの顔を直視出来ない。

「や、あの、待って!」
「いやだ」
「アーサーだって待て出来るのに……!」
「それとこれとは違うだろ」
「違わな……」

 い、と全て言い切る前。反論すらも飲み込もうとするようにアランが私へと口付けた。頬ではなくて、唇に。たった一瞬でも、不意打ちのキスはいとも簡単に私から言葉を奪った。

 「……そんな顔されて待てるわけないだろ」
 「そんな顔って言われても……!」

 どんな顔してるか自分では分からないけど、なんにしたってアランのせいだ。

 「俺のして欲しいこと、お前のして欲しいことと一緒だと思うんだけど」

 とどめとばかりの一言にぐらつく。

 「お前にしか出来ないからな」
 「……私にだって、アランだけだよ」

 満足気なアランが私の肩に手を置いて、そっと迫る。目を閉じて受け入れたキスが終わる瞬間に、優しく押し倒されて二人してベッドへダイブした。


fin*

0221 イケシリワンライ





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