古い友人達に手紙を送る事が好きだ。
別に返事を期待している訳じゃない。ただ、自分が書きたいだけなのだ。
数日前も、攘夷戦争の時代の友人達に手紙を送ったばかり。我ながら、何と筆まめな事だろう。
時に文の中に、ちょっとしたお茶目を入れてみたりなんかして(例えば本文の内容とP.S.の内容を入れ替えてみたり)。彼らは楽しんでくれているだろうか。
「坂本。手紙が届いちょるぞ。」
「ほ?誰からじゃ?」
陸奥が差し出した封筒は、真っ白で、郵便番号を書く欄だけが赤い、何ともシンプルなもの。
表には綺麗とも言い難いが、決して汚くはない字で、自分の名前が書かれていた。
陸奥が封筒を裏返す。そこに書かれていた差出人の名前に、喜びが全身から吹き出るのを感じた。
「晋からじゃなかかー!」
陸奥から封筒を奪い取る。足が勝手に踊り出した。
だって、これが踊り出さずにいられようか。愛しい愛しい恋人からの手紙なのだ。
「一旦部屋で休憩してきぃ。今のおまんはウザくてここに居てほしゅうないわ。」
陸奥の言葉に踊っていた足が、部屋に向かって走り出す。あっという間に辿り着いて、ベッドの上に座り、そのシンプルな封筒を上に掲げ、自分の名前と差出人の名前を見比べる。
「ほんに晋からじゃー!」
改めて見て、また喜びが溢れ出る。もしも絵で表すなら、今自分の周りは、花とハートで一杯なのだろう。
「どうしようのー?開けるの勿体無いのー!」
丁寧に糊付けされた封筒の口を指でなぞる。普段なら、ビリッとひと思いに開けてやるところだが、今はそんな気分になれない。
「ハサミ、どこにあったかのー?」
ベッドの上に手紙を置いて、机の周辺を漁る。日頃ハサミなど使わないものだから、それは引き出しの奥底から出てきた。
「綺麗に切らんといけんのー。」
見つけたハサミで、ゆっくりと、丁寧に開封していく。思った以上に真っ直ぐ綺麗に開封でき、愛の力は偉大だと思った。
封筒から、二つに折られた便箋を取り出す。またしても喜びが溢れ出し、便箋を胸に抱いて、ベッドの上でゴロゴロとのたうち回った。
「今度は見るのが勿体無いきに!」
余りに激しくゴロゴロし過ぎて、便箋にしわが入っていないか心配になった。見ると、どうやらしわは入っていない。ふぅ、と息を吐く。
「さて、いよいよ見るぜよ…」
溢れ出さんばかりの期待を胸に、その白い便箋をバッと開いた。
………
………
…あれ?
表を見ても裏を見ても、ただただ真っ白なその便箋。
封筒の中を覗いてみる。中にはもう何も入っていない。
「あっはっはっは!…泣いていい?」
涙が一筋、頬を伝う。
哀しいかな。愛しい愛しい恋人から初めて送られてきた手紙は、白紙だった。