情事の後、男の背中に腕を回す。
その広い背中に、わざと爪を立ててやる。ぎりぎりと。食い込む様に、傷が付く様に。
痛がっているだろうかと、男の顔を見上げたら、そこにあるのはいつもと変わらぬ微笑みだけ。
何だかとても悔しくなって、男の背中をがりがりと掻きむしる。
それでも男は、表情を変える事は無い。

「痛くねェの?」

「痛いぜよ。」

なら、どうして笑っている?

ふと、自分の爪を見てみる。爪は、男の血が滲んで赤くなっていた。

「血が出たよ。」

手を男の目の前に差し出し、血の付いた爪を見せつける。

「ホントじゃの。」

本当にちゃんと見ているのか。ただ、やはり男は笑っていた。



このままずっと、残ってしまえば良いと思う。
男の背中に付けた俺の爪痕も、俺の爪に付いた男の赤い血液も。
これらが、男が俺のものであるという所有印になってしまえば、どんなに良いだろう。

男をこのまま、この星に繋ぎ止めてしまいたい。



男が俺の背に腕を回す。
同じ事をされるのかと思った。いや、される事を望んでいたと言う方が正しいか。
だが、男の大きな手は、俺の背中を優しく撫でるだけだった。



そう、これがこの男の答え。
男は、誰かを縛る事を決してしないのだ。

お前は自由にしていて良いからと。だから、自分の爪痕など、残す必要は無いのだと。
この手はきっと、そう言っているのだ。

気付かされる。この男に。
俺の願いは、何と浅はかなのだろう。



また、男の背中に腕を回す。
散々引っ掻いた箇所を丁寧に撫で、ごめんな、と言った。




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