珍しく朝早くに目が覚めたので、神楽が起きないうちに散歩にでも出てみようかと思ったのが間違いだった。
何でかって?雪が降ってやがったんだよ。もう寒いのなんのって。
この時期にありえなくね?いくらなんでも早すぎじゃないの?ここは北海道じゃねーんだっつーんだよ。
だからと言って散歩止めるのも、何だか寒さに負けた気がして悔しいので、寒さに震えながらも行く事にした。
「うー…さむっ!」
しばらく歩いていると、寒さのせいか妙に早足になる事に気付く。カチカチと顎が鳴り、マフラーに顔を埋めた。
両手をそれぞれ着物の反対の袖に突っ込んで腕を擦ると、その手の冷たさで余計に寒くなった気がした。
手袋してくるんだったな。マフラーだけじゃ足りねーよ。
マフラーに埋めていた顔を出して、両手にはーっと息を吐く。温かいとは思うが、こんなのは一時の気休めだ。すぐにまた両手が冷たい空気に晒される。
「…やっぱ慣れないことするもんじゃねーな。」
引き返そうか。そう思った。そろそろ神楽も起きてくる頃だし、散歩と言っても問題無い位の距離は歩いただろう。
振り返ろうとしたその時、路地裏から見覚えのある姿が現れた。
「…ヅラ?」
呼ばれたその人影は振り向き、俺の方をきっと睨む。
「ヅラじゃない、桂だ。」
「何、お前。こんな時間に散歩?」
ヅラのお決まりの言葉をいつも通りにスル―して、そう問い掛ける。
「うむ。目が覚めてしまってな。だがまさか雪が降っているとは思わなかった。」
ふう、と小さく吐かれたヅラの溜息は、すぐに白い息に変わる。
寒そうにマフラーに顔を埋めるヅラの頬は、真っ赤になっていた。
そう、まるでりんごの様な。
ヅラに近付き、両手で顔を包み込む。ヅラの頬は、俺の手よりも冷たかった。
不思議そうに見上げてくるヅラの頬に、触れるだけのキスをした。
うん。やっぱり冷たい。
「…何をする。」
「んー、おいしそうだなと思って。」
りんごみたいで。
そう付け足すと、ヅラの頬が少しだけ温かくなった気がした。
目を逸らし、照れた様な仕草をしていたヅラが、俺に近付いて肩に頭を乗せる。
「お、あったけー。」
「…うるさい。」
ヅラの腰の辺りに腕を回して、もっと近くに引き寄せれば、ヅラはそれに抗う事無くされるがままになっていた。
慣れない事をするもんじゃない。その言葉は今この時点で撤回しよう。
腕の中にある温もりを感じながら、そんな事を考えた。