(土沖/♀)
眠れない。
ちょっとした悪夢を見てしまった。もう一度寝ようにも、先程の夢のワンシーンが、頭をよぎる。
一人で、居たくない。
こんな夜は、奴をからかって遊んでやろう。どうせ、奴はまだ寝ていない。
布団から抜け出して、月明かりを頼りに、縁側を歩いた。
あなたの手で
「失礼しやーす。」
ぱん、と襖を開ける。視線の先には、机に向かう後ろ姿。
予想通り。土方は起きていた。
不機嫌そうな顔が、沖田に向けられる。
「ノックぐらいしやがれ、総悟。」
「何でィ。赤い服を着た女とでも思いましたかィ?」
「ち、違ぇよ!何言ってやがる!」
土方をからかい、慌てる様子を楽しむ。
あぁ、やはりここに来て正解だった。
近くに土方を感じ、密かに安堵する。
もっと近くで顔を見たくて、部屋の中に入り襖を閉める。土方は、仕方なさそうに溜め息をつく。そのまま仕事に取り掛かろうと、再び机に向かってしまった。
(顔、見えねぇや。)
土方の背後に敷いてあった布団の上に座り、その広い背中を眺める。筆を持つ右手が、ひたすら動き続けて、忙しそうだった。
何も言わずにしばらく眺めていると、突然筆の動きが止まる。沖田は不思議に思い、首を傾げる。すると土方が、気まずそうに沖田の方に振り向いた。
「…そんなに見られてっと、集中出来ないんだけど。」
「そうですかィ?」
「邪魔しに来たんなら、部屋に帰れ。」
「邪魔しに来たけど、部屋に帰るのは嫌でさァ。」
土方が、はぁ、と溜め息をつく。すっと立ち上がり、沖田の方に向かってくる。大して驚くことも無く、沖田はその様子を見ていた。
目の前にしゃがみ込んだ土方が、沖田の瞳を見る。目の前の男が何をしたいのか分からず、沖田は眉間にしわを寄せ、首を傾げた。
突然、肩を掴まれ、押し倒される。
沖田の視線の先には、土方の顔と天井。自分の肩を掴む大きな手に、どきりとした。
「お前な、少しは警戒しろ。」
「アンタ相手に警戒なんかしたって、仕方ないでさァ。」
「そうじゃねぇよ。こういうのはな、据え膳って言うんだ。」
据え膳?と沖田は聞く。知識の少ない頭には、聞き慣れない言葉だった。
「こういうこった。」
言って土方は、首筋に顔を埋める。
「ひぁ!」
そのまま首筋に口付けられ、慣れない刺激に声を上げた。構わず土方は、沖田の耳朶を甘噛みする。ぞくぞく、と身体が震えるのを感じた。
肩を掴んでいた手が、着物の上から体のラインをなぞる。は、と沖田の口から熱い息が漏れた。
そこで、手の動きが止まる。土方が顔を上げ、焦点の定まらない沖田の瞳を見た。
「据え膳食わぬは男の恥ってな。分かったろ、総悟。」
「何が、ですかィ?」
息が整わないまま、土方に問う。
「そんな簡単に男ってモンを信用すんな。たとえ仲間でもだ。」
土方は沖田の上から身体を退かす。
「俺は恥で構わねぇから、さっさと部屋に戻れ。また襲われるぞ。」
言って土方は、沖田の栗色の髪を軽く一撫でする。優しい手つきが、心地良い。
その手で、もっと。
髪から離れようとした手を掴む。驚いて、土方は目を見開いた。
掴んだ手を両手で触れる。温かくて、大きな手だと改めて思った。そのまま、土方の手に唇を寄せる。
「っ…おい!」
土方の焦る様子が面白くて、その手に何度も何度も口付ける。
「おい、総悟!」
名を呼ばれて、止めた。掴んだ手はそのまま、自らの頬にあて、すりすりと頬摺りした。
「土方さんになら…」
「…あ?」
熱に浮かされたままの潤んだ瞳で、土方を見る。
「…食われちまっても、構わないでさ。」
余りに艶めいた沖田の姿に、土方はごくりと喉を鳴らした。頬にあてられていない方の手で、目にかかっていた沖田の前髪を避ける。
「…後悔しても、知らねぇぞ。」
土方の整った顔が近付いてくる。その様子を、沖田は焦点の定まらない瞳で見ていた。
そのまま。
二人の唇が重なった。
重なった唇から、舌が割って入ってくる。歯列をなぞった後、口内にある舌に絡みついた。
「ん…んぅ」
耐えきれずに、沖田の口から声が漏れる。口端から、溢れる唾液が垂れた。
土方の手が、着物の袷から侵入する。もう片方の手が、器用に帯を解いていく。
着物は沖田の肌を滑り、簡単に着崩れた。土方の前に、細い裸体が露わになる。
唇を離すと、沖田の頬は上気して紅みを帯びていた。
「随分と、そそる顔してんな。」
土方がからかうように言う。だが、初めてのこの行為に、悪態をつく余裕など無かった。
「ふぁっ」
露わにされた乳房に、土方の手が触れる。やわやわと揉まれると、沖田は恥ずかしさから、瞳を堅く閉じた。
「恥ずかしいか、総悟。」
見透かしたように土方が言うと、沖田は視線から逃れるように、顔を背ける。
「でも、止めてやれねぇぞ。」
土方が、乳房の中心を軽く摘んだ。そのまま、指の腹でそれを転がす。
「ぁんっ…ひじ、かたさ…」
「総悟…」
吸い寄せられるように、土方は沖田にキスをする。角度を変えて、啄むように。
土方の手は、休む事無く沖田の肌の上を滑る。与えられる愛撫に、沖田の身体は快感に震えた。
自分の下で快感に耐える沖田に、愛おしさを感じる。
一体いつから、こんな感情沖田の身体が、驚いた様に一際大きく跳ねた。
「やっ…土方さん…」
「言っただろ、止めてやれねぇよ。」
何度か秘部に指を這わせた後、指を一本侵入させた。
「はっ…あぁ…」
出し入れする度、沖田の口から熱を含んだ声が漏れる。土方は沖田の頬や首筋にに口付けながら、指を一本、二本と増やしていく。
「ふっ…んぁ…っ」
「痛いか?」
「ん…大丈夫でさ…ぁ」
そうか、と呟き、土方は少しずつ指を動かし、狭いそこをゆっくりと解していく。沖田は目をぎゅっと閉じ、初めて感じる小さな痛みに耐えていた。
痛みが和らぎ、快感から沖田が喘ぎ始めた頃、土方が指を抜いた。
肩で息をしながら、沖田は土方を見る。その視線に気付き、土方は沖田の唇に軽くキスをした。
「さっきより痛ぇぞ。大丈夫か?」
土方の問いに、沖田はただ、頷いた。そのまま、瞳を閉じる。
正直、怖いと思った。これから感じるであろう、未知の痛みが。
それを察したのか、土方は沖田の身体をそっと抱き、頭を撫でる。安心感から、ほぅ、と息を吐き、土方の背中に腕を回した。
「いっ…あぁぁっ!」
指の時とは段違いな痛みが、全身を走る。何かが裂ける感覚に耐えられなくて、無意識に土方の背中に爪を立てる。
土方は変わらず沖田の頭を撫で、ゆっくりと進む。
自身が全て沖田の中に収まると、頬に軽く口付けた。沖田の頬は、生理的な涙で濡れていた。
「ふぇ、ひじかたさん…」
舌足らずな口調で、土方を呼ぶ。まるで、はぐれた親に縋り付く子供の様に。応える様に、涙に濡れる瞼に口付けて、土方はゆっくりと動く。
律動の度、沖田は声を上げる。少しずつ痛みは和らぎ、それとは違う快感が生まれる。
速くなっていく律動に、沖田の意識は朦朧としてきて。感じるのは、快感だけになって。
それが最高に達した時、沖田は意識を手放した。
「総悟、起きろ。」
「んぁ?」
目を開けると、朝の日差しが眩しかった。土方を見ると、しっかりと隊服を着た状態で、沖田の寝転がっている布団の横に居た。
沖田の身体は清められ、きちんと寝間着を身に付けている。
「あのな総悟…今日は、その…休んでいいからな。」
土方が気まずそうに言う。
確かに身体がだるい上に、人には言えない部分が痛い。
でも、それじゃあ。
「嫌でさ。俺は仕事出ますぜィ。」
「あ?でも総悟…」
戸惑う土方に、沖田はにやりと不適に笑う。
「あんたを暗殺するチャンスがあるかも知れねぇのに、休む訳にはいかねぇでさ。」
「はあぁ!?てめ、この期に及んでまだ言うか!?」
「俺はいつだって副長の座、狙ってますぜィ。忘れんなよ、土方さん。」
言って、沖田は布団から抜け出し、土方の部屋を後にした。
残された土方は、はぁ、と大きく溜め息をついて、頭を抱える。
「夕べはあんなに可愛かったのに…」
一人虚しく呟いた。
「休んでなんか、いられっか…」
縁側に出た後、沖田は一人呟く。
だって休んだら、夕方まで土方に会えないじゃないか。
自分以外の誰かが、土方の隣を独占するじゃないか。
そんなのは、嫌だ。
歩く度、鈍い痛みを感じる。それは、自分が処女を失ったという証で。
でもそれは、彼によって奪われたのだから。
彼に奪われることを、ずっと望んでいたのだから。
沖田は小さく笑い、朝日を体一杯に浴びながら、自分の部屋へ続く縁側を歩いていった。
***
みや様へ。
お待たせ致しました!
650番リク小説『土沖で裏』完成致しました。
みや様のみ、お持ち帰り可です。
そして、返品可です(笑)
管理人、まだまだ未熟なもので、みや様のご期待に添える作品になったかどうかとても不安ですが…よろしければ貰ってやって下さいませ。
水樹 麻夕。