(大人銀時と子供桂)





何をどう間違ったらこうなるのかはわからないが、そこにいる子供は確かに桂である。
一つに結い上げた真っ直ぐな髪を弾ませて歩くその姿はまさしく昔の、女の子とよく間違われていた桂である。
人違いじゃないかって?大人が子供に還るなんて有り得ないじゃないかって?まあ確かにそうなんだけれど。

「ぎんときー」

ほら。この姿でこんな風に俺の名前を呼ばれたら、俺はこの現実を認めざるを得ないのだ。
坂本辺りに何か盛られたんだろうと勝手に自分を納得させて、その小さな背中を追っている。今はそんな状況。

「だから、俺が銀時だっつってんだろ。ヅラァ」

「ヅラじゃない桂だ!貴様なんかが銀時なわけがない!」

さっきからずっとこの会話を繰り返している。どうやら記憶まで子供に還っているようで、この時代にいるはずのない、昔の俺を探している。
きょろきょろと辺りを見回しながら、小走りでかぶき町の通りを進む。危なっかしくて仕方がない。早歩きで十分に追いつける速度ではあるが、それでも見失わないよう、その小さな背中から目を離さない。
ぎんとき、ぎんとき、と子供独特の高い声で呼ばれると、不自然ながらも懐かしい気持ちになる。ただ、その声が呼ぶ「ぎんとき」という人物は俺であって俺ではない。それが何とももどかしい。

桂は遂に疲れたのか、通り掛かった河川敷に立ち寄り座り込んだ。当然俺もその後を追い、小さな桂の隣に座る。ちらりと拗ねたように俺を見る桂に、苦笑いしか浮かべられない。桂はまたそっぽを向いた。

「…貴様は銀時に似ているけど、やっぱり銀時じゃない」

「どうして?」

桂は膝をぎゅ、と抱え込む。その顔は、何だか悔しそうに歪められていて、少し戸惑った。

「銀時は、貴様みたいに笑わない」

笑わないし、いつも寝てるか遠くを眺めてばかりで、こっちを見てくれない。珍しくこっちを見たと思っても、なんだか冷めた目をしていて。話し掛けても応えてくれない。

「でも、いつも寂しそうなんだ」

そう言った桂は、膝に顔を埋めてしまった。
ああそうか、と一人納得した。
この子は、俺と出会ったばかりの頃の桂なのだ。
あの頃、俺は先生に連れられてきたばかりで、人付き合いの経験などほとんど無くて。だから、何故かいつもちょろちょろと俺の後をついて来る桂に、どう接したらいいのかわからなかった。煩わしいとさえ思っていた。
勘の鈍いこいつでも、何となくそれを感じ取っていたのだろうか。小さく丸くなっている桂を眺めて、少しだけ罪悪感。

だけど、俺は知っているのだ。

横にある小さな頭に、ぽん、と手を置いた。桂が視線だけをこちらに向けた。

「なら、しつこく構ってやりゃあいい。そうすりゃそのうちどうにかなんだろ」

「あまりしつこくすると嫌われてしまわないか…?」

「テメェはしつこさだけが取り柄だろーが。今更そんなこと気にしてどうすんだ」

小さな頭をぐりぐりと撫でる。やめろ髪がぐしゃぐしゃになる、と慌てる小さな桂。何だか面白くなってきて、更に撫でてみたら手をぺちん、とひっぱたかれた。

「しつこいのは貴様だ!もう!」

頬を膨らませて怒る小さな桂。面白くて、可愛くて、ついつい笑ってしまう。桂が目を見開いた。

「ずっと話し掛け続けていたら、銀時も貴様のように笑ってくれるだろうか」

銀時は俺だよ。そう胸の内で呟いたが、もう口には出さない。再び小さな頭に手を置く。今度は力任せに撫でたりはしなかった。

「そのうち絶対笑うから、心配すんな」

本人が言っているんだ。間違いない。やはり口には出さないけれど、そういう意味を込めて「絶対」と言ってやった。桂は、そうか、と嬉しそうな表情(かお)をした。

「貴様、意外に優しいな!名は何と…」

言いかけた桂を無視して、唐突に響く爆発音。それと同時に舞い上がった粉塵が晴れた時、そこにいたのは現在(いま)の桂だった。

「ヅラ…」

「ヅラじゃない桂だ。何だ、俺は何故ここにいるんだ」

辺りを見回す桂に手を伸ばす。腕の中に収めたその身体は、間違いなく桂のもの。

「…銀時?」

「やーっと俺の名前呼んだ。もう勘弁して。どんな状況でもどんな格好でも、もう二度と俺のこと忘れんな」

桂の手が俺の背を摩る。何を言っているんだ、と笑った。

「笑わぬ頃から好きだった貴様のことを、忘れるわけがないだろう」

ああ、あの子もそうだったのだろうか。
そんな確認できもしないことをぼんやりと思いながら、背を摩るその感触をしばしの間、楽しんだ。





君が笑えば僕も微笑むから





title:カカリア





(ツイッター診断より千里さんリクエスト)




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