(♀)
あと何分?
茶を啜りながら窓の外を見ると、晴れ晴れとした青空が見えた。今日は洗濯日和だなぁ、なんて思いながら、新八は再び湯呑みに口を付ける。
一息ついて窓から部屋に視線を移すと、さっきから忙しなく部屋中を歩き回る家主の姿。
うろうろ、うろうろ。
うろうろ、うろうろ。
「…銀さん、落ち着いて座って下さい。」
「あ!?おー…そうだな。」
大きな白い犬に跨って空を見ると、雲に手が届いてしまいそうだ。背も胸ももっと大きくなったらいいのに、なんて思いながら、神楽は定春の頭をわしわしと撫でる。
万事屋に帰り扉を開けると、ソファーに腰を下ろし貧乏揺すりをしながら玄関を凝視する家主の姿。
そわそわ、そわそわ。
そわそわ、そわそわ。
「…銀ちゃん、ウザいアル。」
「え!?何で!?」
落ち着きの無い銀時に、万事屋の皆は溜め息を吐くばかり。
「そんなにそわそわしなくたって、ちゃんと桂さんは来ますよ。」
「え、何言ってるの新八くん。違うからね!?別にヅラ待ってる訳じゃないからね!?大体ヅラが来るのなんて、今言われるまで忘れてたからね!?」
「はいはい。」
そう。今日はここ、万事屋に桂が来る事になっている。ここしばらく攘夷の勧誘が無かったので、桂がここに来るのは久しぶりだ。
桂から突然の電話があり、今日万事屋に行くと言われた。銀時は、しばらく顔を出さない桂の身を密かに案じていたのだが、何せ相手は指名手配犯。住所不定、連絡先も不明な為、様子を知る事は叶わなかった。
やっと来た桂からの連絡。銀時は正直、会う事が待ち遠しかった。
「…遅ぇ。」
こめかみに青筋を立てて、怒気を含んだ声で銀時が言う。
「…銀さん。まだ時間になってないんですけど。」
呆れた声で突っ込む新八の声を無視し、一変して今度は不安そうな表情に変化する。
「来る途中で何かあったんじゃ…」
「だからまだ…」
「新八、無駄アル。銀ちゃん最近、ヅラに関してヒステリックネ。」
呆れる子供二人の話は、銀時の耳には入っていない様で、相変わらず貧乏揺すりをしながら玄関を睨み続けている。
さあ、愛する恋人が来るまで、あと何分?
ピーンポ…「ヅラあぁぁあ!!」
チャイムが鳴った瞬間、玄関に向かって走り出す。これで来たのが桂でなかったらどうするつもりなのかなんて、これっぽちも考えてはいないだろう勢いだ。
「!?何だ!?何事だ、銀時!?」
「何事だじゃねーよ!遅いんだよ!まさか変な奴に襲われたりしてねーだろーな!?」
「遅かったのか!?俺の時計では二分しか過ぎてないぞ!?」
「うるせえぇ!!俺が一時に来いって言ったら一時ぴったりに来るんだよ!次、一秒でも遅れたら叩くからな!」
余りに理不尽な銀時の発言に、桂は呆気に取られている。
そして、玄関でぎゃあぎゃあと幼稚な言い合いを続ける大人二人を、子供二人は遠い目で眺めつつ、身支度を始めた。
「あ、こんにちは。リーダー、新八くん。」
「こんにちは、桂さん。いきなりですけど、僕ら出掛けますんで。」
「え!?そんな俺の事は気にしないで…ほら、お土産あるぞ?」
万事屋の皆と食べようと思って買ってきた饅頭を差し出し、笑顔で桂は言う。
「銀ちゃーん、ちゃんと私の分取っとくアルヨ。」
「知るか、んなもん。さっさと行っちまえ。」
手をちょいちょいと払い、早く出てけと視線で促す。
「それじゃあ桂さん。ごゆっくり。」
「またなーヅラー。」
呆然とする桂を後目に、二人はさっさと万事屋から出て行った。
「ま、上がれば?」
「…うむ。」
銀時に導かれるまま、桂は万事屋の中へ足を踏み入れた。
万事屋から出て行った二人は、はぁ、と同時に溜息を吐いた。
「…やっぱ、あのまま居れる訳無いよね。」
「後の展開が見え見えアル。あのバカップルぶりを見せ付けられるのは御免こうむるネ。」
以前にも、久しぶりに桂が万事屋に訪れた時の二人の異様な仲の良さ、それこそいつ勢いで始めてしまうかも知れない程のいちゃつきぶりに、二人は苛立ちと気まずさを覚えていた。
桂はよく万事屋に来るのだが、それが少し空いてしまうと銀時はヅラ不足という症状が現れる様で、手が付けられなくなるのだ。
次、こんな機会があったら、絶対に逃げようと二人は心に誓っていた。
「…とりあえず僕の家行こうか。昨日姉上がお菓子貰ったって言ってたし。」
「おー!さすが姉御アル!」
菓子の効果で神楽のテンションは一気に上がり、二人は意気揚々と新八の家に向かって行った。
「それで、銀時。最近の様子は…」
言いかけた桂を、銀時はソファーに押し倒す。そのまま首筋に口付け、着物の袷から手を差し入れた。
「ん…随分と、調子が良い様だな…ぁ…」
銀時が少しだけ首筋に歯を立てれば、桂の身体が小さく跳ねる。
「…うるせェよ。」
怒った様に言う銀時に、桂は少し恐れを感じた。
銀時が一体何に対して怒っているのか、桂には全く心当たりが無かった。
「…銀時、怒っているのか…?」
恐る恐る聞くと、銀時は顔を上げ、背中に流れる長い髪に触れた。
「ずいぶんと連絡よこさねーで。そんなに攘夷活動が楽しいの?銀さんと居るより。」
銀時は嫌味っぽくそう言って、触れたその髪に口付ける。
ああ、そういう事か。桂は思う。
銀時は自分の事を心配していたのだろうか。そう思うと、桂は嬉しくて仕方が無かった。
「何だ?攘夷にヤキモチか?」
からかう様にそう言えば、銀時は桂の髪を引っ張る。
「…ばーか。」
馬鹿と言われて言い返そうとした桂の唇は、銀時のそれによって塞がれる。そのまま舌を差し込まれ、苦しくなる程に舌を絡ませ、咥内を弄り合った。
着物の中にあった銀時の手が、桂の乳房を揉む。頂を摘まれ、背中が反った。
「ん、ふ…ぎん…」
名を呼ぼうとして、また唇を塞がれる。息苦しさと好き勝手に動く銀時の手の動きに翻弄され、どうにかなってしまいそうだ。
やっと唇が放され、桂は肩で息をする。彼女が動けないのをいい事に、銀時は器用に帯を解き、袷を広げさらしも解いて、その白い肌を外気に晒した。
肌寒さと恥ずかしさを感じ、桂は身を捩り身体を隠そうとする。昼間から、しかも万事屋のリビングという明るい所で肌を晒す事には慣れていないのだ。
「よく見せてよ。久しぶりなんだし、綺麗なんだから。」
恥ずかしげも無くさらりとそう言う銀時に、桂の顔は赤くなる。素直に見せる事など出来るものか。そう思いながら目を背けた。
「恥ずかしいの?今更。」
「…うるさい。」
「素直じゃねーな。」
銀時はにやりと笑い、肌を隠していた桂の腕を掴み頭の上に押さえ付けた。そのまま、胸の頂を口に含む。桂の華奢な身体がびくりと跳ねた。
「は…あぁ…」
舌で頂を転がす度に桂の身体はふるふると震え、形の良い唇から切なげな吐息を吐く。
銀時は空いている方の手を下半身に滑らせ、下着の中に手を入れる。既に潤ったそこをゆるゆると撫でれば、桂は物足りないというような瞳で銀時を見る。
その熱っぽい視線を感じ、銀時は再び桂に口付ける。舌を絡ませながら、秘部に指を二本入れた。
「んぁ…あ、あ…」
桂が快感に身を捩ったことで離れた唇を首筋に移し、わざわざ見える位置に所有印を残す。銀時は何度もそれを繰り返した。
「髪長くて良かったね。隠せるから。」
蜜が溢れ十分に解れたそこから指を抜き、猛る雄をあてがう。
「痕付けられたくなかったら、ちゃんと顔見せやがれ。」
言って、そのまま腰を進めた。
「ああぁ…はぁ…っん」
奥まで進めて律動を少しずつ速める。それに合わせて桂の口から熱い息が漏れた。
「あ、あ、やだ…ぎんとき…」
「何?何がやなの?」
律動を緩め、桂の顔を覗き見ると、桂が銀時の服のファスナーを下ろしていった。
「俺も…ぎんときに、触りたい…」
「…お前ね、それ、反則。」
銀時はすぐに上着を脱ぎ捨て、桂を力一杯抱き締める。直に肌が触れ合って、気持ち良いと思った。
余りに可愛らしい恋人の発言に耐えられずに、銀時はより激しく律動を再開する。桂の腕が銀時の背中に回った。
「ああ、は…あ、ぎん、や…あぁ…」
「く…こたろ、こたろ…!」
「あ、ふぁ、ぁ、あぁー…!」
桂が果てた後、その締め付けで銀時も果て、桂の腹を白濁で汚した。
絶頂を迎えた余韻に浸りながら、銀時は桂の唇に何度も啄む様なキスをした。
銀時の広い背中を撫でながら、桂は銀時のキスにずっと応え続けた。
さあ、子供達が帰ってくるまで、あと何分?
「ただいまヨー。」
夜も更けた頃、新八と神楽が帰って来た。
「お帰り、リーダー、新八くん。」
桂が二人に笑い掛ける。その手には先程持ってきた土産があった。「おー!ホントに取っといてくれたアルカ!」
「置いておくと銀時に食べられそうだったんでな。」
箱を開け、新八と神楽に饅頭を手渡す。神楽はそれを嬉しそうに受け取り、桂の隣に座った。
「あれ、そういえば銀さんは?」
家の主が居ない事に気付き、新八はきょろきょろと部屋を見渡す。
「ああ。何だか酒を切らしたとか言ってな。今買いに行っているところだ。」
そうですか、と言い、新八は桂の向かい側に腰を下ろす。
「ヅラ。今日泊まっていくアルカ?」
饅頭を頬張りながら、上目遣いで神楽が尋ねる。
「銀時にはそうしろと言われている。」
「キャッホー!じゃあ私と一緒に寝るネ!」
「え、神楽ちゃん…それは…」
「それはいいなリーダー。一緒に寝ようか。」
満面の笑みを浮かべる神楽の頭を撫で、同じく笑顔で答える桂に、新八はもう何も言えなかった。
さあ、子供に奥さんを取られた可哀想な旦那が帰ってくるまで、あと何分?
***
hama様へ。
大変長らくお待たせして申し訳ありません!
3223番リクエスト小説「銀桂で万事屋ファミリー絡む甘裏」、完成致しましたのでhama様に捧げますv
うまくファミリーと絡ませられなかったのは私の力不足です;;すみませ…
ご希望に添えたかどうか自信はありませんが、よろしければどうぞ貰ってやって下さいませ!
水樹麻夕。