(攘夷)





わかりきった嘘





休み無く戦い続けた身体は重く、本当に自分のものなのかどうかすら分からなくなる。
俺の一歩先を歩く銀時もまた、重そうに自分の身体を引き摺っている。

坂本も高杉ももう居ない。二人の抜けた穴は余りに大きく、それを補う為には俺達が働くしか無いという事は、ある意味暗黙の了解だ。
だが、戦力の問題だけでは無い。彼らは俺達にとって、余りに大きな存在だった。心の拠り所とでも言うのだろうか。否、互いに支え合っていたと言うのが正しいか。
二人が居なくなり、俺達は笑う事がめっきり少なくなった。会話も、一言二言を交えて終わってしまう。希望も何も得られぬこの状況では、当然の話なのかも知れない。
毎日の様に、戦の繰り返し。もう負けるのだと頭では分かっていても、心の何処かで納得がいかず、ただ我武者羅に足掻いているだけだという事は、本当は俺にもよく分かっている。

銀時の背中を必死で追う。俺の方が身体のダメージが大きいらしい。銀時も日頃より遅く歩いている筈なのに、それでも追い付く事が出来ない。
少しずつ離れていく、赤く染まった白い羽織。拡がっていく距離が妙にリアルに感じられて、恐ろしかった。
いつかあの二人の様に、この男も居なくなってしまうのだろうか。俺の手をすり抜けて、何処か遠くへ行ってしまうのだろうか。

嫌だ。

胸の奥底で叫ぶ。声を出さねば届かぬと分かっていても、どうしても口にする事の出来ぬ愚かな叫び。

どこにも行かないでくれ、銀時。俺の傍から、離れていかないでくれ。

銀時の背中に、胸の内で語り掛ける。それでも離れていく、白い羽織。
喉から声が出せなくて、手を伸ばしても届かなくて。

ああ、眩暈がする。

「ヅラ!?」

俺はついに膝を付いてしまった。その音が聞こえたのか、銀時が振り向き、俺に駆け寄る。
俺は安堵する。お前の中にはまだ、俺の存在があるのだな、と。

「歩けねェか?今肩貸してやっから。」

「…銀時。」

「ん、何?」

銀時の顔を見る。その紅い瞳は、確かに俺を映している。ああ、見えている。銀時にはちゃんと、俺は見えている。
自分の肩に俺の腕を回そうとした銀時の首に、そのまま両腕を巻き付ける。腕に力が入らない。もっともっと、強い力で抱き締めたいのに。

「…ヅラ?」

「…ヅラじゃない…銀時…」

滑り落ちそうになる腕で、必死に銀時に縋る。情けない。言いたい事を言葉に出来ず、縋るだけで伝えようとする俺は、余りに情けない。
それでも銀時は、俺の背中に腕を回して、俺の身体を引き寄せる。ぐっときつく抱かれて、涙が出そうになった。

「俺ァ何処にも行かねェよ、こたろう。」

「銀時…ぎ、とき…」

溢れ出る涙を止める術を、俺は知らない。銀時はただ微笑んで、俺の瞼に口付けを落す。
この涙は、抱き締める腕が力強いから、嬉しくて出てくるものなのか、それとも。

銀時の言葉が嘘だと知っているから、切なくて出てくるものなのか。

その時の俺には、よく分からなかった。





この数日後、戦は俺達攘夷派の敗北として終結する。その日、銀時は俺に何も告げず、俺の前から姿を消した。
あの時の様な涙は、俺の瞳からは出てこなかった。銀時の居なくなった部屋の真ん中で、呆然と立ち尽くす俺は、何も感じていなかったのだろうか。
ただ一つ。全く働かぬ頭の中で浮かんだ言葉が、そのまま俺の口から滑り落ちた。



「うそつき。」




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