(同級生パロ/♀)





アイツと俺は釣り合わない。

陰でそう言われているのは知っている。
俺自身、そう思っていたんだ。他人が思わない訳がない。

だけどアイツは、そんな事は気にも留めず、毎日俺の所にやって来る。
よくもまぁ飽きないもんだ、と言いたくなるくらい、頻繁に。

俺と居て、何がそんなに楽しいのか。
疑問に思う事もあるが、俺も悪い気分はしないので、それは聞かない事にしている。



「銀時。一緒に帰ろう。」

今日も桂は、俺の教室にやって来た。その様子はいつもと変わらず、妙に楽しそうだ。
俺は黙って立ち上がる。机の傍らに立つ桂の横を通り過ぎて、足早に教室を出る。
桂が慌てて、小走りで俺の後に付いて来る。

俺達のこのやり取りは、この教室で毎日繰り返されている。
周りの者達はその度に、俺達に訝しげな視線を送り、ひそひそと何かを話している。
何を言われているのかは、聞こえなくとも想像出来る。



俺はこの学校で、どうしようもない不良だと有名だ。孤児院育ちの親無し。授業はサボるわ喧嘩っ早いわで、昔から問題児扱いだ。
対する桂は、この学校一の優等生。世間知らずなお嬢様。クソが付くほど真面目な性格で、かなりの天然ボケだ。

余りにかけ離れた性質を持つ俺達。こんな二人が何でまた一緒に居るんだか。全く驚きだろうよ。










何で俺達がこうやって一緒に居るかって?
コイツと出会って、まぁ色々あった訳だ。



さっきも言ったとおり、俺は不良だ。皆に恐がられ、避けられ、厄介者扱いされてきた。
この事を、誰かのせいにするつもりは無い。だけど、自分が悪いとも思わなかった。

要するに、無関心だったのだ。

他人の事も、自分の事も、どうでも良かった。
腹が減ったら食べるし、ムラムラしたら女を抱くし、売られた喧嘩は必ず買う。
その時々の自分の欲求にだけ、正直に生きてきた。



ある日、俺は大怪我を負った。それまでに俺がボコボコにしてきた奴らが、突然集団で襲ってきたのだ。
流石にあの大人数相手はキツかった。何とか返り討ちにしてやったが、俺もただでは済まなかった。

疲れ果て、歩けなくなって、路地裏に座り込むと、雨まで降ってきやがって。あの日はつくづくついてなかった。
雨水が傷口に滲みる。ひりひりと痛んだが、そんなものより気になったのは、俺の胸に言い様の無い虚しさが広がっていた事。
それが一体何故なのか、その時の俺には分からなかった。
考えるのも面倒になって、目を閉じ、傷口の痛みだけをひたすらに追求した。傷の痛みの方が、この虚しさより何倍もマシな気がした。

突然、人の気配が現れた。目を閉じたまま、知らないふりをしようと思ったが、俺の前から一向に動こうとしないそれに、仕方無く瞼を上げる。
そこには、傘をさした誰かが立っていた。長い黒髪を持つその人に、俺は見覚えがあった。
同じ高校に通うお嬢様、桂小春だ。

「立てるか?」

無表情で、桂が問うてくる。

「放っとけ。」

俺は投げ捨てる様に答えた。

「うむ。分かった。」

そう言った桂は、何故かその場を動こうとしない。それどころか、俺の隣に腰を下ろし、傘の半分に俺を入れた。相合い傘の様な状態だ。

「…放っとけっつってんだろ。」

「だから、放っているだろう。」
俺はここに座りたかっただけだ。どうも持ちづらいから、傘を少し右にずらしただけだ。
なんて事を、隣に座る桂は言った。

意味が分からない。一体何なんだコイツは。一体何がしたいんだ。
そう思いながら、俺の左肩に触れる温かな体温に、ほっとすると同時に泣きたくなった。

しばらくの間、忘れていた人の体温。
女を抱こうが野郎を殴ろうが、手に入る事の無かったそれは、乾いていた俺の心に染み入った。

膝を抱え、顔を押しつける。瞳から流れ出る水は、雨の滴だという事にしておいた。
桂は何も言わない。何を考えているのか、全く分からなかった。
ただ一つ、この時、桂の左肩が濡れていた事を、俺は知っている。



雨が止む。既に日は暮れており、雲の隙間から月が、星と共に姿を現した。
桂が傘をたたむ。立ち上がり、スカートに付いた泥を払った。

「立てるか?」

桂が、今度は俺に手を差し伸べながら問うてくる。

「…ああ。」

差し伸べられた手を握る。俺の手は冷えていたが、桂の手はもっと冷えていた。
桂の顔を見る。先程の無表情とは違う、微笑みがそこにあった。
それが余りに眩しくて、俺は桂の顔を直視出来なかった。目を背けて、俺の腕をぐいぐいと引っ張る力に、抗う事無く立ち上がる。

握った俺の手を桂は放そうとはせず、そのまま俺を引っ張って歩き出す。怪我をした俺を気遣う様に、ゆっくりと。
一回り小さなその手を、俺は何故か振り解く事が出来なかった。それどころか、ずっとこのまま握っていて欲しいとさえ思った。

俺の手を包むその小さな温もりを、手放したくないと、そう思ったんだ。



あの日以来、桂はやたらと俺の元にやって来る。
彼女の表情が妙に楽しそうな理由は、俺には未だ分からない。

俺にも、少しだけ変わった事がある。
あの日以来、俺は学校をサボる事を止めた。
理由は、まぁ、聞かないでくれ。何か恥ずかしいから。










早足で歩く俺に、桂は相変わらず小走りでついて来る。
そのまま校門を出て、学校からかなり距離のある所まで歩いてから、ぴたりと足を止めた。
振り返ると、桂が息を切らしながら、俺の前に止まった。

「はぁっ…銀時…速い…」

胸に手を当て、息を整える桂から、鞄を奪い取る。驚き目を見開く桂を後目に、俺は歩き出した。
先程よりゆっくり歩いていると、桂が俺の横に並んでくる。顔をちらりと盗み見ると、やはり少し嬉しそうだった。











いつか、あの日の君の様に










俺も、お前の手を握りたいよ。

だけど、ゴメンね。今の俺には、お前の隣に居るのが精一杯なんだ。




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