サレトーマを服用してみて
ロウライネへと出発する前に、港で少しの間休息している一行。名無だけは地面に倒れている。サレトーマの絞り汁で相等なダメージを負ったらしい。ベルベットたちの注意にも耳を傾けず、うつ伏せになって寝ていた。
「うう、流石サレトーマ……後味も最悪ですね……こんなものを、また飲むことになるなんて……」
エレノアも苦痛の意を溢す。二人が後味に悩ませられているなか、マギルゥはケロリとしていた。使役聖隷に飲ませれば効能だけ吸収できる。そのことを知っていた彼女はビエンフーに飲ませ、本人は飲んでいないのだ。
「二人とも、大丈夫……?」
「お前、二度目の壊賊病なのか?」
エレノアはロクロウの質問に首を振った。
「いえ、新人対魔士は、入寮式の歓迎会でサレトーマを飲むのが慣習なのです」
「悪趣味な新人イジメね」
「衝撃的に不味いものを食した体験を共有し、結束力を高めようという前向きな儀式です」
「あっそ」
彼女の目に涙がたまっていく。
「もう、一生飲まずに生きていけると思っていたのに……はっきり言って、うらみます」
そんななか、マギルゥがエレノアに言葉をかけながらベルベットを見やる。
「不味い不味いと言えるのは幸せじゃぞ。美味いものの味もわかるということだからのー……じゃろう、ベルベット?」
ベルベットはマギルゥの台詞に顔を歪め、舌打ちをした。どういうことだと伺うエレノアに、ライフィセットがベルベットの味覚について教えた。彼女は血以外の味がわからないと。
(そんなことが……業魔になったから……?)
すると、何かを思い付いたようにニヤリと笑うベルベット。彼女の手にはサレトーマの花が。
「もうひとつわかる味もある。マギルゥ、残ったサレトーマをプレゼントするわ」
「い、いやじゃ〜!―――はっ…!」
表情を一変させ、逃走しようとするマギルゥの足首を掴む者が。その人物はゆっくりと顔を上げた。
「お前、よくもワァーグ樹林ではいじめてくれたなぁ……!」
「名無!」
いわずもがな、地面で寝ていた名無である。彼女は瞬時に起き上がり、マギルゥを羽交い締めにして拘束した。
「やり返されるのは当たり前だよなぁあ〜!?」
「は、放せぇえ〜!!」
名無もベルベットと同様に悪い顔だ。マギルゥは足掻くが彼女の恨みの方が強いらしい、びくともしなかった。
「そのまま押さえてて」
「当たり前だ!!」
「ふぁ、ふぁめふぉ〜!!」
ベルベットがマギルゥの口内にサレトーマをねじ込む。
「うええぇぇ〜〜!!マッズゥゥゥゥゥ〜〜ッ!!」
先程の名無とエレノアのように倒れるマギルゥ。名無はそのリアクションに、吹っ切れたように大笑いした。
「な、なるほど。他人の不幸は蜜の”味”……ですか」
復活した名無が、申し訳なさそうな顔でエレノアに近寄る。
「ごめんエレノア。サレトーマなめてた」
「いえ、わかっていただけたのなら……」
「すごく不味かった!!」
「でしょう!?」
味の感想を言い合い、お互い共有している。二人の仲が少し深まっているような気がした。聖寮が新人たちにサレトーマを与えるのも、あながち間違いではないのかもしれない。そして、いい経験ができたとも言う名無。
「マギルゥの言った通り、他の食べ物が全部もっと美味しく感じれるところがサレトーマのいいところだな」
「ま、前向きですね……」
「次のご飯が楽しみ!」