探索船A  



先程、探索船の報告を受けた名無たち。
名無は鼻歌を口ずさみながら、書き加えられた地図を見ている。ライフィセットが一生懸命背伸びをしながら覗き込んでいることに気付いた名無は彼に地図を手渡した。

「地図、ちょっと埋まってきたね」
「見てるだけでも楽しいな」

そんな二人を見たアイゼンが口を開いた。

「まだまだだ。世界は広いぞ」
「うん、まだまだだね」
「そっか、まだまだなんだ」

それはつまり、未発見の新天地が多く残されているということ。名無は謎多き異海に、ますます興味を示す。

「それにしても、海にも色々あるんだな。”異海”とはよく言ったもんだ」
「本当……季節や風や場所によって海は全然違うのね……」

ロクロウの言葉に同意するベルベット。最近まで海のことなど、まるきり関心がなさそうだったのに驚きだ。

「その通り。お前も海に興味が出てきたようだな」
「さぱらんは取り消しか?」
「そんなんじゃない。昔聞いた話を思い出しただけよ……」

ベルベットはそのまま、切なそうな顔をして行ってしまった。


一方向を眺め続ける名無。手には地図が握られていた。その様子に気付いたアイゼンは名無の隣に立ち、彼女の視線を追う。

「探索船が進んだ方向を見ているのか。名無、どうした?」
「……いや、羨ましいなって思って」

アイゼンは名無を見た。彼女は海を眺めたまま話し続ける。

「探索船の奴ら、楽しそうに結果を報告してただろ?大変だったろうけど、なにより楽しかったんだろうなって」
「……そうだな」

本当に冒険譚を語る彼らは充実している様子だった。自分まで探索船に乗り込みたくなるまでだ。名無もそうなんだな、とアイゼンは口角を上げた。

「目なんかキラキラ輝いててさ!聞いてるこっちまで嬉しかったよ」

私もいつか異海を探索したい。未開の地を歩きたい、知りたい。これが名無の望みだ。彼女の綺麗な瞳も、この晴天の下に広がる大海原と同じように輝いてるようだった。

「全世界の景色を、この目で見たい」
「……」

聖隷の、長い時を生きる自分でさえ巡りきれていないのだ。人間の、短い寿命を持つ名無は―――
アイゼンの考えを読み取ったかのように、名無は彼を見上げる。

「叶わなくても、生きてるうちは進み続けたいんだ」
「……ああ。お前なら、可能だろう」

名無はアイゼンに笑顔を向けて、地図を広げた。名無に一歩近付き、アイゼンも地図に視線を注ぐ。そして気になる土地や、それに対しての予測の話に花を咲かせた。

地図の完成を目指して―――


 


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