元・山賊の試み@
補給の為にカドニクス港で買い出しをしている一行。あっ、と名無が声を上げる。食材売り場にブリギッド渓谷で出くわした山賊の男性がいたからだ。名無の大きな声に彼も気付いたようで、こちらに向かってきた。
「あんたたち、無事だったんだな。刀斬りはどうなったんだ?」
「その件なら、もう方は付いたぜ」
ロクロウの言葉に安心したようだ。山賊の男性は胸を撫で下ろした。そしてエレノアの方を見る。
「あなたはこちらで何を?」
「……あんたに色々言われて目が覚めてな、山賊から足を洗ったんだ。ありがとうよ」
山賊の男改め、元・山賊の男。何だか姫の前に元をつけろとうるさい名無みたいだとロクロウはからから笑う。
「わかっていただけて、私も嬉しいです。それで、これからは何をなさるおつもりですか?」
「王都に行って、山賊料理の店でも始めようかと思ってるんだ」
「山賊料理……?」聞いたことのない料理のジャンルに名無は怪訝そうな顔をした。
「ああ、山賊やってると金以外に食い物も色々手に入る。それを組み合わせて創作料理を作るんだよ」
キノコばっかりの”盗っ人タケダケシイ丼”とか、山賊風闇鍋の”歩けば山賊にあたる鍋”。彼が思い付いた料理名からは外見が想像できないが、名無は少し興味を示す。
「面白そうだなー」
「……ちょっと、不謹慎な気もしますが、お店ができたら私も食べに行きたいです」
エレノアの反応に元・山賊の男は舞い上がる。そして熱い視線を彼女に向けた。
「そうか!嬉しいなぁ!俺も真人間になって……姉ちゃんに……み、見合う男になるぜ……」
「頑張ってください」
エレノアは応援の言葉をかけ、去っていく元・山賊の男を見送った。確認の為にベルベットがエレノアに質問する。
「……あんた、あいつの話、ちゃんと聞いてた?」
「はいもちろんです。こんなに嬉しいこともあるんですね」
元・山賊の男のアプローチはエレノアに全く通じてないようだ。ベルベットは彼女の鈍感さに溜息をついた。
「ベルベット疲れてる?溜め息なんかついて」
「……とびきり鈍いのが、もう一人」
「?」