11月  



十一月。冷えてきて、寒がりな私には辛い時期がやってきた。「おはよー、おはよー」朝の挨拶を返しながら下駄箱を開く。

「………お?」

私の下駄箱から、ひらりと何かが落ちた。


「おお、マドンナの登場じゃ〜♪」「………」弁当を持った私は三人に合流する。マギルゥの台詞を無視して食事を始めた。

「それで、何て答えたのですか?」
「断ったよ……あんまり話したこともない奴だったし」
「そうですか」

あなたに惚れました。よければ昼休みに校舎裏に来てほしい。
今朝、下駄箱に入っていた手紙を要約するとこうだ。呼び出しに応じた私だったが返事は最初から決めていた。

「何でこう急にモテるかな……歌っただけじゃねぇか」

今日のようなことは、初めてじゃない。学園祭が終わってから何回か告白されている。やけに声をかけられたり、連絡先を聞かれることも増えた。

「それが問題なのよ」
「可愛かったですもんね、ステージでの名無」
「ギャップ萌えというやつじゃの。モテ期到来じゃ〜」

ベルベットはニヤリと笑って嫌味ったらしく「モテモテね。マドンナ名無」……体育祭の時に彼女をヒロインベルベットと散々からかった仕返しだ、これは。

「で?実際どうなんじゃ?」
「どうって?」
「男のことに決まっとろうが〜!誰かと付き合う気はないのかえ?」

ベルベットとエレノアも食い入るように私を見つめる。女子はこういう会話内容が好物なのだ。体育祭明けにはライフィセットとのことで、ベルベットに詰め寄ったこともあった。

「……うーん………あんまり知らない奴と付き合う気にはならないな」

観念して正直に話す。自分の恋愛観を明かすのは恥ずかしい。

「………付き合うなら、結婚を見据えてがいいし。簡単には決められないよ」

「………」あっけにとられたように三人が黙る。「…あ!やっぱ今のなし!!」私は真っ赤になって訂正しようとした。

「「「純情……」」」
「なしにして!!」

純情マドンナ名無とかいう恥ずかしいあだ名がつけられそうになり、焦る。何か話題を逸らさねば、私は新しい話題を探そうと頭をフル回転させた。

『一年B組の名無さん、至急職員室まで来てください』
「は」
「何かやったわね?」
「えー……最近は何もやってねーぞ………」

弁当を食べている途中に放送で呼び出さないでほしい。私は重い腰を上げて、職員室に向かった。


「………」「どうだった?」私は三人に放り投げるように、一枚の紙を渡す。そして食事を再開した。

「名刺?」
「……スカウト!?」
「卒業後でもいいから返事くれってさ」

昼しか時間がないから放送で呼び出したらしい。「この事務所知ってますよ!」エレノアのテンションが上がるが私は興味がない。昼休みもあと少しだ。私は黙々と弁当を食べ続けた。



「なるのか?歌手に」
「ならないー興味ないー」

この質問は何度目だろうか。アイゼン先生にも同じように聞かれ、不機嫌そうに言ってしまった。あ、部品に傷が……。

「お前、進路はどうする気だ?」
「………考えたことないんだよな」

卒業までに他にやりたいことができなければ、スカウトに応じるのもいいかもしれない、私はそう呟いた。

「………しっかり考えろ。進路は一生を決めることになるんだぞ」

怒られてしまった。くどくど積み重なる彼の説教の言葉は的を得ており、自分も変わらないとなと思い直す機会となる。

「機械部に影響しない程度に、新しいことに挑戦するのもいいだろう。将来の夢が見つかるかもしれん」
「なるほど」

「じゃあ試しに次告白されたらオッケーして、彼氏でもつくってみるか」「それだけはやめろ!!」全力で阻止された。


 


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