4月  



このファイルを化学室へ届けてほしい。……と、マギルゥに頼まれては断れない。いや、誰に頼まれても断るつもりはないんだけど。

放課後、私は一人化学室を目指していた。入学早々友達になることができたベルベットとエレノアは部活見学だ。これを届けたら合流しよう。
ファイルは不透明な物で中身は見えない。気になるが我慢だ。プライバシーの侵害になるかもしれないし、何より私の良心が許さなかった。あと化学室に着くまで中を見るなとマギルゥに念を押されたのだ。見ようものなら何をされるかわかったもんじゃない。……良心とかよりもこれが一番の理由かもしれない。入学してすぐなのに彼女の凄まじさはもう身に染みていた。

まだ届け物は済んでいないというのに私の頭の中は何の部活に入ろうかな、と完全に切り替わっていた。水泳部かな、でももう少し料理の腕を上げたいし家庭科部もいいなぁ。そういやロクロウに「バンドやろうぜ!」とも誘われていた。

そんなことを考えているとあっという間に化学室だ。灯りがついている、誰かいるのかも。ノックをしてから扉を開けた。

「あ、アイゼン先生だ」
「お前は確か、B組の………」
「名無です」

そこには化学教師のアイゼン先生がいた。今日初めての化学の授業で会ったばかりだし名前までは覚えてくれてないだろうな、と察し自分から名乗った。
アイゼン先生……かっこいい教師の一人としてクラスの女子が騒いでたな。確かに美形だと思う、目付きは悪いが。
このファイルはどうすればいいのだろうか。化学室に入ったらわかるとマギルゥは言ってたんだけどなぁ。先生に渡せばいいのかな?辺りを見渡していると先生が歩み寄ってきていた。そして

「女子なのにカラクリに興味があるとは……いい趣味をしている。名無!機械部はお前を歓迎するぞ!」
「………は?」

は?
………少し間を開けて、私はアイゼン先生の言葉とこの状況を理解した。いやいやいや!勘違いしてるよ!

「ちっ、違います!」
「あ?機械部募集のポスター見てきたんだろ?入部希望者は今日の放課後化学室まで、と記載しておいたからな」
「うっわこええ……い、いやぁポスターとか全く知らなくて」

目付き悪いから睨むと本当に怖い。私は苦笑いで返すしかなかった。早く誤解を解かねば。

「私はただこれを届けにきただけで」
「見せてみろ」

言われるがままにファイルを渡す。これでわかってくれるだろうと胸を撫で下ろしたのだが。

「……やはり入部希望者じゃねぇか。入部初日からくだらん嘘を吐くな」

アイゼン先生がファイルの中の1枚の紙をピラリと裏返し、私の顔の前に突き出した。内容に絶句する。その紙は、なんと機械部への入部希望届だったのだ。私の名前で、筆跡まで似ている。勿論こんなもの書いた覚えなどない。マギルゥの仕業だ。

「そ、そんな訳が!マギルゥの奴!私をはめやがったな!」
「名無!」
「はっ、はいぃ!?」
「これから3年間みっちりしごいてやる!目指すはカラクリンピック世界大会だ!」

思いを馳せ、希望に満ちた放課後タイムが終わった瞬間であった。

化学室の窓ガラスに映る、目を輝かせながら機械部の部活内容とカラクリの素晴らしさを語るアイゼン先生と死んだ魚のような目で聞く私の目は、あまりにも対照的過ぎた。


 


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