吐露


※ジャーファル視点


アリババ君―――

君の隣に居るとね、時々全てを壊してしまいたくなるんだ。



「....無理をしているのではないですか」

私はそう呟きながら、稽古帰りのアリババ君の髪をそっと撫でた。
彼の美しい金髪が、指に絡んで私は愛しさに目を細める。

「....そんなこと無いです....全然頑張り足りない位ですよ」

絡められた指に擽ったそうに微笑んで、アリババ君はそう答えた。
それから、少し寂しそうな顔をする。

「アリババ君....」

私がそっと彼の名を呼ぶと、アリババ君は顔を上げて微笑んだ。
そしてそっと口を開く。

「....俺も、シンドバットさんみたいな....頼れる人になれたら....」

消え入りそうな声だった。
アリババ君は言い終わると小さく苦笑して俯く。

白い頬に淡く赤味が差していた。

私は、彼の項垂れた小さな身体をただそっと見つめる。

(健気な....)

私は心の内で小さく呟いた。

この少年は、その細い腕でどれ程沢山のものを守り抜こうとしているのか。

(いや....寧ろ、痛々しい)

私はアリババ君の幼さの残る顔をそっと盗み見た。

その表情は初めて出逢った時より、余りにも大人びて見えた。

「....アリババ君」

「?はい、ジャーファルさん」

私が小さく彼の名を再び呼ぶと、彼は愛らしい笑顔を私に向ける。
私は彼をぎゅっと強く抱き締めた。

「私は....今の君を愛しているよ」

柔らかい身体を引き寄せ、そっと耳元で囁く。
瞬間、アリババ君の身体はぴくりと跳ねた。

「そんなに、急いで強くなろうと....強い君になろうとしなくとも....私は君が好きだよ」

言い終わり、にこりと笑って彼の顔を見ると、案の定彼の顔は真っ赤に染まっている。
初々しい彼に私は益々笑みを深めた。

「ジャーファルさん....あんまり俺を、甘やかさないで下さい....」

細い声でアリババ君はそう呟くと、私の身体にきゅっと縋る。
私に縋る彼の手は小刻みに震えていて、今にも彼の心臓の音が聞こえて来そうだった。

「ふふ、甘やかされるのは嫌でしたか?」

優しい声で聞くと、アリババ君は少し唇を尖らせる。
いじけた様に目を細めて私を見る姿が愛らしい。

「....ジャーファルさんの意地悪」

「....おや、心外ですね」

「....だって」

アリババ君の言葉に私は小さく微笑んだ。
アリババ君の言いたいことが、私には手に取る様に解ったから。

そんな私を前に、アリババ君は真っ赤な顔でだっての続きを言葉にしていく。

「だって、ジャーファルさん....俺がジャーファルさんに優しくして貰うの好きなの....知ってるじゃないですか」

アリババ君の言葉は、私の心を煽るには充分過ぎた。

「....ふふ、全く君は私の心を捕らえるのが上手いね」

私は薄く笑うと、アリババ君の首筋に指を這わせる。
アリババ君は少し私を睨み付け、それからかぁと赤くなった。

「ジャーファルさん....もう少しだけ、このままでいてもいいですか」

アリババ君の消え入りそうな声が、胸に響く。

「いいよ、アリババ君。君が望むなら幾らでもこうしていよう」

私は優しく目の前の脆い身体を抱きしめた。
小さな、愛おしい、儚い人。

アリババ君は小さく震えて、尚更強く私の身体に縋った。

(アリババ君、君と居るとね....)

私に縋る小さな身体が愛しくて、私は溶けるような熱量に目を細める。

(君を....攫ってしまいたくなるよ)

瞼の裏には様々な過去の光が踊っていた。
恐らく私は、人並み以上にこの世界の醜いものを見てきただろう。

(君を傷付けるものが何もない.....二人だけの世界に君を....)

抱きついたアリババ君の顔は、私からは見えなかった。
きっと、少し恥ずかしそうに顔を赤らめているんじゃないかな。

「ふふ、アリババ君....何時か君と二人で旅行にでも行きたいですね」

私は胸の内の薄暗い感情に蓋をした。
アリババ君は、私のこんな醜い感情なんて知らなくて良い。

「え、旅行ですか?」

アリババ君は呑気な声でそう言うと、漸く私から離れた。
彼の体温が遠ざかってしまい、少し寂しい。

「ええ、どうですかアリババ君」

彼の言葉に、私はにこりと微笑んで返す。
アリババ君は目をぱちぱち瞬いていたけれど、暫くするとぱっと顔を輝かせた。

「はは、いいですね。何処に行くんですか?」

明るい声でそう言うと、アリババ君は私を見上げる。
幼さの残るあどけない顔。

私は微笑むと彼の髪に再び指を絡めた。
彼の金糸が私の指に柔らかく絡みついて寄り添う。
アリババ君は困ったように目をぱちくりさせた。

「あ、あの....ジャーファルさん...?」

ああ、可愛い。

その光景に私は目元を弛めた。

(アリババ君、君は何て綺麗なんだろう)

大切な彼をそっと連れ出して、何処かに隠して私だけのものにしてしまいたかった。

アリババ君はなかなか返事を返さない私を、少し潤んだ琥珀の瞳で見上げている。
私ははっと思いだしたように会話を続けた。

「あぁ、すみません....さぁ、何処にしましょうかね」

そんな風に答えながら、微笑んで見せる。
アリババ君は少し不思議そうに再び目を瞬いた。

そんな彼を見て、私はにこりと微笑む。
つられたのかアリババ君もへらりと笑った。

(誰もいない所で、君と二人になれたらいいのに)

私は笑顔の裏で、胸中に暗い思いを呟く。

(いっそね、全て壊してしまいたい位だよ)

君を傷付ける、この世界を。

私は再びアリババ君に向き直ると、出来るだけ優しい声で囁いた。

「アリババ君とハネムーンに行きたいです」

「えっ!?は、ハネムーン!?」

アリババ君は意表をつかれたのか素っ頓狂な声を上げる。
頬が少し赤くなっているのが、彼の白い肌によく映えた。

「嫌ですか?」

「いえ....嫌じゃないです....////」

解ってる癖にと呟いて、アリババ君は顔を伏せる。

そうしていれば赤くなっているのに気付かれないとでも思ったのかな。
でも残念だったね、耳まで真っ赤だよ。

私はいたいけな彼に苦笑した。

こんな可愛らしい人の傍に、何故私の様な男がいるのか不思議だ。

(アリババ君)

私は静かに彼の顎に手を添えて、クイと引き上げる。
「わ....」

そして、悲鳴をあげようとしたアリババ君の唇をそっと唇で塞いだ。

「!?////」

アリババ君に深い口付けをし、私は浅く微笑む。

そして、心の中でそっと呟いた。

(―――アリババ君....君の為なら、全てを壊そう)







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