『I am robot 』

ガタガタガタガタ...
つまらない日常、下らない世界。
そんな中で出会えた希望。
“君が好き”



電車が揺れる音にかき消される僕の声。
届かないなぁ……君に、この気持ちは。

「ごめん、アフロディ……くん……? くん付けると可笑しいかな?」
「照美でいい」
「そっか、じゃあ……照美。ごめん、もう一回言って? 聞き逃しちゃって……」

ねぇワザとでしょう?
本当は聞こえてたクセに。

「……だから、好きだよ。君の事」

頭を掻いた君。
もしかして、困ってるの?

「あり、がとう……」

夕方の街の、線路沿い歩く君を見つけて
僕は慌てて追いかけた。

電車の走る音に紛れて、僕の声は何も届かない。
だから近くまで行って、手を握った。

振り向いて、驚いた顔をする君は素敵だった。

「……抱きしめて、欲しいな」

君は僕の事、きっと
嫌いでもなく、好きでもない
興味がない。だって、

「ねぇ、僕……円堂くんの代わりでいいよ」

君、好きな人いるんだもんね。
ほら、また困ってる。
頭を掻く癖。頬の汗。

君の困った顔を見ると僕はゾクゾクするよ……。

「君じゃ円堂くんの代わりは出来ないよ」
「どうして?」
「だって君は……――」

“綺麗過ぎるから”

僕は腹が立った。

「そう……じゃあ円堂くん、どうなってもいいんだね?」

軽く睨む様に君を見た。君は焦った顔をした。
そしてため息をついた後、重っ苦しそうな口を開く。

「……どうすればいい?」

僕の答えは決まってる。

「キスして……抱きしめて、僕を……、君の物にして」
「……分かったよ」

ヒロトくんが僕の髪を優しく触る。
違う。……違う、違う。そんなの望んでない。
僕はヒロトくんの体の異変に気付いてしまった。
だから、違う。

「……愚かだね」

一言を置いてくる様に僕はその場から去った。

なに本気にしてるの?
馬鹿みたい。
自惚れないでよ。

あの人だったら許せた事。
他の人では決して許せなくなった。

優しくされたくなんかない。
乱暴に求めて欲しい。
僕がいなくちゃダメだって言って欲しい。

だけど言葉だけじゃ足りない。

本当に、僕がいなくなったらダメな人。
あの日の あの人みたいに ね。

雨が降り出した。
天気予報は嘘ばかりを吐く。
僕はビルの隙間に入って、横殴りの雨を避けた。

薄暗い路地裏には飼い主のいない猫ばかりがいた。
汚らしい身なりで。

空腹を満たす為に餌を求め僕に近づいた。

「ふふ……っ」

僕を必要としてるモノ、発見した。
だけど僕は何もしてあげられないよ。

「ごめんね……何も持ってないの。僕は、人間じゃないから……」

僕は近付いて来た猫に変な期待を持たせた事が可哀想になって、その場を離れようと立ち上がった。

――カシャン

何かが鳴った。

「……?」

音が鳴った方を見てみると鉄の部品が落ちた事が分かった。

「……ゴミ、か」

時間がないから、早くしなくちゃね。
早くあの人を見つけないと。

――カシャン、カシャン

歩く度に変な音。
早く、壊れてしまう前に……。










――……『ごめんな、照美。……守れなくて……』

――ゴポゴポ……

『……大好きだったから、一番……好きだったから……――』














「……ヘラ」

口から漏れた名前。
ずっと僕が探してる人。

どこに行ったの?僕を捨てたの?
手当たり次第に君の手がかりを辿っても逢えなかった。

逢いたいよ。
君が僕を造ってくれたんだから…。

歩く足並みが速くなる。

ガチャガチャとガシャガシャの2つの音が鳴り響いた。

雨水が体に入れば、痺れて、僕はショートした……。

「ヘ……ラ……っ、」














――……『どうしても治らないんですか!?』

懐かしい 君の声を 思い出してる。
僕は病院のベッドの中。

『……照美』

意識は朦朧としていたから、詳しい事はわからないけれど、
医師が病室から離れたスキに、ヘラは僕をベッドから連れ出してどこかに連れ込んだ。

そして僕は変な液体の中に入れられた。

透明な強化ガラスの中で頭や体に管を沢山繋がれて、僕は外の君をじぃっと見ていた。

「ごめんな、照美。……守れなくて……」

君は僕の体の一部を使って、新たに僕を生み出して 消えて行った。
どういう経緯でこうなったのかわからない。

ただ一つ分かる事。“僕は呼吸をしない”

















雨はまだ降ってた。
機械の体が壊れて行く。
君に逢いたい。逢いたくも逢えない。

いくら走っても乱れない呼吸。
そ れな の に 、
僕 ハ … 、 僕 ノ コ ノ 体 ハ 、


 レ
    去
  ッ
   テ

  行

     ク





いつかまた逢えたら、その時は…抱きしめて、ね…?


(2012.10.02)


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