『君に、ジェラシー』

嫉妬する。
本当にお前は、誰にでもその美しい顔を晒しているのか。

「照美?」

いつもと違う匂いがする。
他の男と逢っていたのか?
そんな事考えると腹が立つ。

「どうしたの、ヘラ」

照美の長い髪の毛を触った。
サラサラしてた。

俺は照美の顔を思い切り殴った。

――パァアン

「――……っ!!」

乾いた音がこだました。
目を丸くして照美は俺の方を見た。

「ヘ、ラ……?」

だって悪いのはお前。
いつだって一番愛してるのは俺。

俺は続いて照美を殴った。
何度も、何度も。
顔がグチャグチャになって見えなくなる位。

「ヘラ……っ?」

泣きじゃくる照美の顔はもはや照美の顔じゃなかった。

「照美……お前は俺の物だろ? ……なのになんで……っ、その顔を平気で他人に見せるんだ!!」

醜くなった顔。
もう誰もお前に近付かない。
安心したら、涙が出た。

「……ヘラ、ごめん……ごめんね……っ」

そう言って泣く照美をすぐに抱き寄せた。
自分の胸元に照美の顔を押し込めた。
震える小さな肩。
細い腰。
長い髪の毛。

――長クテ 綺麗ナ 髪ノ毛 ガ、
赤ク 染マッテ イル―――

「……照美?」

驚いて照美の肩を掴んで、自分から少し離して
照美の顔を見た。

真っ赤だった。
額、目、鼻、頬、唇。
怖い位整っていた顔は、今はもう、

ただの肉の塊。

「う……ぁ、ああぁああぁぁあああああーーー―……っ!!」

自分の顔を押さえて叫んだ。
……自分のした事が、怖かった。

真っ暗で何も見えない。
暗い、暗い、暗い……。

嫌だ、照美と離れたくない。
いなくならないで欲しい。

俺の前から消えないで……。



「ああぁああぁああ あ あ あ……っ」

涙が、頬を伝った。
いつかその涙のラインは冷たくなって、風が吹くたび寒い。

「……ヘ、ラ」

君の声がする。そして温かい。
照美は、震える足で俺の元へたどり着いた。

強く強く、抱きしめられる。

「ごめんね……ヘラ……。」

謝るのは俺なのに…。
そんな優しさに甘えてしまいたい。
甘えてしまえ。

照美を抱き返す、俺の腕が震えてた。

「照美……俺のそばにいて……。ずっと、ずっと……」
「……いるよ。僕は、何があっても……君のそばにいる……」

掠れた声。心地良い。

俺は照美の血まみれの顔を水で濡らしたハンカチで綺麗にした。
だけど、傷跡は消えない。
腫れも、痣も。

「……ごめんな。」

だけど、照美は泣いてなんかなかった。
むしろ笑ってた。

「大丈夫、大丈夫だよ……。だって……、」

照美は自分の傷だらけの顔を触った。

「……これは、君が僕を愛してくれてる証なんだもん」
















照美は、いつしかいなくなってしまう。
俺の元から消えてしまう。

照美の顔の傷は2ヶ月して消えた。
傷と一緒にお前もいなくなる?

授業中の教室で一人考える。
ねぇ、じゃあ……お前が動かなくなったら?
一人で歩かなくなったら?

ずっと一緒だね。

ずぅっと、一緒にいられる。
俺だけの物になる。
永遠に。

「……いい事思いついた。」

俺は教室を飛び出した。
そうだ、照美が動かなくなればいいんだ。

2年生の教室まで廊下を走った。

「照美!」
「!?」

ガラリと教室のドアを開いた。
照美は驚いて、俺の方を見つめた。
先生が俺を止めようと話し掛けるけど、そんな事はどうでもいい。

照美とずっと一緒にいたいんだよ。

「ヘラ……? どうしたの?」

マスクをかけた照美が近付いて来る。

「照美、俺……ずっと照美と一緒にいる方法思い付いたんだ」
「……え?」
「もうこんなのも必要ない」

そう言って、照美の顔のマスクを取ってやった。

「……可愛い。」

俺は安心して笑顔を見せて、そのまま照美を家に連れて帰った。





「照美……照美、照美照美照美照美……!!」

無我夢中で照美の肌をナイフで切り裂く。綺麗なままでいて欲しいから。
もう苦しめたくないから。

「いちばん きれいな いろ って なんだろう……」

お気に入りの歌を口ずさむ。

「いちばん ひかってる もの って……ハハっ、照美……、綺麗だ……」

赤い色。照美の体が赤く光ってる。

「……君が一番綺麗だ」


(2012.09.23)


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