『なんてピエロ』

 留守番中にチャイムが鳴って出てみると、そこにいたのは先日付き合い始めたばかりの恋人が立っていた。

「やあ」

 なんて、目を細めて笑う。そんな風に微笑まれると僕はそれだけで嬉しくなる。
 一つ気になったのは、そんなヒロト君が抱きかかえていた黒い猫の事。

「……なにその猫」
「可愛いでしょ? さっき拾ったんだ」

 悪気はないのだろう。普通なら人の家に来る際には捨て猫など拾ってこない。抱いている猫に頬を擦る君を見てたら急に、その猫が羨ましくなった。

「ヒロトくん猫好きだったんだ?」
「う〜ん、普通かな…」

 間の抜けた返事にムシャクシャする。それは僕が、どうしようもなくヒロトくんの事が好きな証。
 だって、好きでも嫌いでもない猫に頬を寄せるくせに僕にはそんな事したことは一度もない。

「ヒロトくんは好きでもない相手とキス出来るの?」

 聞くと、彼は答えた。

「できるよ」
「…バカヤロウ」

 不意に出てしまった言葉。それを聞いて君は笑った。

「フフ…照美でもそんな言葉使うんだね」

 恥ずかしさと苛立ちでそっぽを向いたけど、君は僕の右頬を左手で添えて自分の方を向かせた。腹が立っていたから、必死に向くまいと首に力を入れた。

「…そんな汚い言葉……どこで覚えたの?」

 しかし力を入れそっぽを向いてたのは失敗だった。優し過ぎる低い声で温かい吐息を耳に吹き込まれる。

「……っ」

 顔が赤くなって行くのがわかる。

「ちょっと…日本語の“おベンキョウ”をしなくちゃいけないね……」
「な…なに言ってるの……?」

 ヒロトくんは僕を軽々抱き上げると、居間にあるソファーへ放り投げた。慌てて彼の方へ体を向けると、ヒロトくんは僕の体を触って顔を耳に近付けた。
 そして耳に一吹き、息を入れてから首筋に噛みついた。
 ああやだ…この瞬間だけはいつまでも慣れない。

「……んっ」

 ゾクゾクとしちゃうのは、彼の息と髪が軽く僕をくすぐるから。

「感じちゃったの? 照美…」

 言葉にされると恥ずかしくなる。

「そんな事……っ」
「そうかな…。俺には感じてる様に見えたんだけど…」

 彼の服を掴みながら甘い愛撫に耐える。ヒロトくんはいつもの笑顔で魅せながらやたらと耳を弄った。

「あ…も……っ、ヒロトくん…っ」

 我慢出来なかった。もっと、もっと強い刺激が欲しくなった。
 だけどいつもの様に彼は焦らして来る。
 いつも僕はそれに惑わされる。

「なぁに? 照美」
「(……知ってるクセに)」

 ヒロトくんは、僕が言葉を濁すと必ず問い詰める。曖昧に濁した言葉を嫌う様に。
 結局、僕はいつだって……

「ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ?」
「〜〜…っ!!」

 ……いつだって、君の手の内。

「ちゃ…ちゃんと触って……っ」

 やっと言えた言葉を君は冷たく突き放す。

「…どこを?」

 言わなくたって分かってるんでしょう?
 相手が他の誰かならば答えるのが面倒になる様な事なのに、不思議な事に彼の時は違う。
 むしろ胸がドクドク脈打って破裂しそうなくらいにドキドキしてる。

「……僕の、敏感な所に…触れてよ」

 ただ黙って見つめてた彼は満足げに微笑んで頭を撫でた。
 それで、優しい声で言う。

「…意地悪してごめんね」

 それだけなのに、もう胸がいっぱい。頭の中まで君で充満してる。

「案外…そんな所も好き、だよ…」

 小さく放った言葉を聞き取ったのか、彼は優しい目を細めて僕のおでこにキスをした。
 それからだんだん唇を下に移動し、閉じた瞼にもキスして僕を見つめた。

「…可愛い」

 一言吐き捨てて、今度は唇に唇を重ねた。さっきまでしていたキスとは変わって今度は永いキスだった。
 彼の舌が僕の口内に侵入して、中をかき回す。
 するとぐちゃぐちゃと下品な水音が耳を犯した。

「んん…っ」

 その雰囲気と音に体が反応してしまう。
 ヒロトくんは気にせず片方の手は僕の顔に添えたまま、もう片方を僕の服に忍ばせて胸の突起を触った。
 優しい愛撫を続けてたそれが急に強くつねった時、驚くほど体が跳ねた。

「んあ…ヒロトくん…っ」

 とっさに離した唇から唾液が糸を引いた。

「敏感だね、照美は」

 呑気にそんな事を言ってから、ヒロトくんは僕の服を靴下のみを残して剥ぎ取ってしまった。

「…これいいね」

 今日は寒かったから長い靴下を履いていて、それを見た彼が言った。

「……き、今日は寒かったから…っ」
「なんか…興奮するよ……」

 軽く頬を染めて、その足を持ち上げて左右に開きながら彼は僕の汚い部分を見つめた。

「や…恥ずかし、いよ……」
「…恥ずかしがらないで。照美は綺麗だから……」

 そう言いながら、彼は谷間に顔を埋めてそれを舐めた。

 





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