『わりとかげきす』

「キスがしたい」
「ちょ……っ」

俺の目の前の人物が突然言う物だから、俺は焦る。

「いいじゃん、恋人同士なんだしさ!」

眩しい笑顔に思わず流されそうになる。

「は、恥ずかしいですよ……こんな、沢山人がいるのに……っ」

貴方はわかってないでしょう?
貴方はキラキラしていて、周りを引き寄せる魅力が自分にあるって事を。

だから、どこにいたって結局は みんなに見られているんですよ。

「えー……ヒナの馬鹿ー……」
「……」

そうやって頬を膨らまし、口を尖らす顔も仕草も俺は大好き。

「……仕方ない、ですね」

その尖った唇に一瞬触れるだけの軽いキスをしようと会社を近づける。
だけどこんなに近くに顔があると、思わず見入ってしまう。

「(佐田の肌……こんなに綺麗だったんですね……)」

しばらく見ていたら佐田があまりにも急に俺の顔を両手で抑えてキスをした。
それも、大人達がする様な上品なキスではない。

音で例えるならば“ぶっちゅう”とでも記した方が相応しい。
俺は内心、流石。と思ってしまう。

「へへっ」

人差し指で鼻の下を擦って照れ隠しをする貴方。

「……貴方、ちょっとはマシなキスを出来ないんですか!?」

“まあいいじゃん”と軽く吐き捨て丸め込まれる。
まあいいか と流される俺。
ああ、俺は完全に佐田に染められてるんですね……。

「チャイム鳴るから行こう、ヒナ!」
「はい……っ!」

差し出された手。
間違っても離しません。
温かくて、優しくもある佐田の大きな手。
これからはゴールだけじゃなく、俺の事も守って下さいね……?


授業中、俺の席から見える佐田の顔。
佐田は俺の斜め前の席。

問題を解こうと考えると横顔
ぼーっと窓を見やる横顔
隣の席の子とお喋りする横顔

今日は何回見れるんでしょう、と
それが俺の毎日の楽しみ。

ほら、今日は一回目。
窓の外を見てる

「……なの、雛乃……!」
「……はっ」

先生に呼ばれて我に返る

「……すいませんっ」
「教科書の75ページ読んでくれ」
「はい」

周りの人に混じって一緒に笑う佐田。
好きすぎてどうにかなりそう……。


授業が終われば一目散に佐田の元へ駆け寄る。
佐田はいつもみたいに笑ってこう言う。

「よっ!」

どうして出会ってしまったんでしょう。
こんなに好きになるなんて。

「一緒に帰りましょう。」

「おう!」

手を繋いで、いつだって一緒に。
いつもの帰り道、佐田がふと立ち止まった。

「なあ雛乃、俺なりに考えてみた」
「……は」

言ったあと、急に佐田の顔が至近距離。
俺は思わず目を瞑った。

優しいキスを佐田が俺に落とした。
触れるだけのキス。

「ちょ、ちょっと…!!」

突然だったので文句の一言でも言ってやろうかとしたら、佐田が両肩に手を置いた。
それからもう一度、唇を重ねる。

「(わ……っ、心臓の音、大きい……)」

それはどちらの心臓の音かわからなかった。
ドクドクと波打つ。

ゆっくり唇を舐める様に佐田の舌が口の中に侵入する。
息が止まりそう……。

俺は佐田の服の裾を遠慮がちに右手で掴んだ。

入ってきた舌が俺の口を掻き回す。
口内の敏感な所に触れる度、声が漏れる。

「……んん、」

少しくすぐったい……。

「ん……ふ……っ」

何度も何度も、その部分を舌で触る。
だんだん激しさを増して佐田は俺の口内を犯した。

そうして最初に口を重ねてから5分くらいして、やっと解放されると
離した唇から粘っこい糸が二人を繋いで、すぐに切れた。

「……どうだった?」

佐田がいつもの様子で笑って聞く。
頬を紅くして。

「……とても、」

その笑顔を見て、俺も微笑む。

「とても良かったです……っ」
「良かった!」

顔を見合わせて笑った後は、貴方が手を差し出す。

「さ、帰ろ!」

貴方が初めて真剣にしたキスは、
割と過激なキスでした。


(2012.10.17)






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