「城下に行くの?」

「えぇ」


私が問うとシンスケはピタリと動きを止めて答えた

他のメイド達がいるため、例の如くうそくさい敬語を使っている


「私も連れていきなさい」


命令口調で言うとシンスケはちらっと私を見て、誰にも気付かれないように溜息をついて断言した


「だめです」


様子からして私が言う事を予想していたみたい

まぁ、私もシンスケが断るって事ぐらい予想してるわ

だから面倒だけど、他のメイドの前で話してるの



「命令よ」



一言言い放つと、シンスケは動きを止めた


二人の時ならここで「ふざけるな」と私を小突くでしょうけど、他のメイドの前ではそうはいかないものね


「承知致しました」


案の定、シンスケは恭しく一礼してそう言った

優越感に浸りながら更に私は付け加えた


「支度を手伝ってちょうだい」

「はい」


文句も言わず私に従って一緒についてくる

が、部屋に一歩足を踏み入れた途端に、デコピンを食らわされた



「いたっ」

「こんの馬鹿が!」

「なによっ!」


眉間にシワを何本も寄せてシンスケは私を睨み付ける


「だいたい城下に何しに行くんだよ」

「それは…その…」


シンスケに問われて思わず言葉を濁した

だって『銀髪のあの人に会いたい』なんて恥ずかしいし、馬鹿されるのが目に見えてるから言えない


「関係ないじゃない」

「俺はお前の召使だぞ?関係ないわけねーだろぉが」



たしかに…そうよね

シンスケの言う通り

きっと間違ってるのは私の方



だけど…



「どうしても行きたいの!」

「…っ。そんなにあの男に会いたいのかよ!」

「な、なんでっ」



シンスケの口から出て来た言葉に耳を疑った

でも、冷静になってみれば、この前の一部始終をシンスケが見ていたとしたら不思議じゃないわ


「そうよ。文句あるの?」

「…っ」


私が強い口調で言い放つと、シンスケは辛そうな顔をした

どうしてあんたがそんな顔するのよ………



「わかった…」

「シンスケ…」


シンスケは一つだけ返事をして私の支度を済ませると、馬車を出した

馬車の中でも一度も会話はなかった



***



城下につくや否や、私は銀髪のあの人を探し始めた


あの人もきっといるはず

会えると信じてる


−−早く会いたい



その一心で走り回っていると、人込みの中にあの人を見つけた


「…………え?」


声をかけようと追い掛けた私の目の前には信じられない光景が広がっていた




「本当にありがとうございます」


「喜んでもらえてよかったぜ」




あの人の隣に、緑の女の子がいた

私より少し年上くらいかしら


誰?何してるの?



楽しそうに笑って、腕をくんで歩く二人の姿を見てもやっとしたものが私の胸から溢れた



誰、その女。恋人なんていわないでね。

私はまだ貴方の名前すら知らないのに。

ねぇ、どうして?

私は貴方に会いに来たのに。

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…………?



泣きたいような、怒りたいような、この感情は一体何−−?





嫉妬




「…何泣いてんだよ」

「うっ、ひっく…」


私はどうしようもなくなってシンスケが待つ馬車に逃げ戻った

飛び付いて泣き叫んだら、シンスケは半ば困った様に私の背中を摩った


「ぅ…緑のっ女の子と一緒に…あの人が……っっ」


私が言うと全てを悟ってくれたらしく、シンスケは強く私を抱きしめてくれた


「胸が痛いの。もやもやして…苦しいっ」

「それは…」


私が泣き止むように背中を撫でながら彼は言う


「“嫉妬”って言うんだ」

「“しっと”…?」


私が首を傾げると彼は小さく頷いた


「サラサは小さい時から欲しいものは全部手に入ったから…嫉妬した事もなかったんだな」


「シンスケはあるの?」



私が言うとシンスケは困ったように笑った



(俺じゃない男が好きだと泣かれて、嫉妬しないわけないだろ)




−−−−−−−−
緑の女の子=初音ミク
はい、そのまんま。だって出番ないんですものVv


2011*11*13



BackTOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -