「…」


そっと部屋を出て右を確認左を確認

よし。奴はいない!


足音をたてないように、そろっと部屋から一歩外に出た途端声をかけられた



「どこ行く気だ、お嬢様?」

「!?」



地の底から響くような声で言いながら、シンスケは私の肩に手をおいた

痛い痛い、地味に痛いわよっ


「ち、ちょっとお庭に…」

「そんな格好でか?」


シンスケに突っ込まれ、反論できずに黙ってしまった


「だって…」

「だっても何もねぇんだよ、馬鹿嬢!」

「馬鹿嬢!?」


な、何それ!初めて言われたわよ、そんなこと!

…まぁ、当たり前かι

私にこんな事言えるのは世界で唯一彼だけだ



廊下でこんな風に話してるのをきかれてはマズイと、シンスケは私の手を引いて部屋に入る

それからギッと私を睨んだ

あぁ、怖い顔。


「どこに行く気だったんだ?」

「…だから、お庭に」

「しつこい!!」

「あいたっ」


ペチッとデコピンをされた

この私になんてことを…


おでこを摩りながらシンスケを見上げると、相変わらず怖い顔

まったく、せっかくのイケメンが台なしね!


いつまでもこうして睨み合ってるわけにも行かず、仕方なく白状する事にした


「城下に…」

「やっぱりな」


私の言葉をきいて、シンスケは呆れたように溜息をついた

見当がついてるならわざわざきかなくてもいいじゃないの


「俺の服を着たのは変装のつもりか?」

「悪いの?」


そう。私が今着てるのはシンスケの服

なんだかシンスケに馬鹿にされた気がして、悔しくて腰に手をあてて胸をはってやった


そしたらやっぱりシンスケは私を馬鹿にして笑った



「着方分かんねェくせに」

「む。」


シンスケの言う通り、男の服なんて着方分からないけど…

でも、頑張って着たのよ!?


「ボタン掛け間違ってるし、ぶかぶかだしよ…」

「わ、笑うな」


ククッと喉を鳴らして笑いながら、シンスケは私の服を直してくれた

掛け間違ったボタンを直して、長すぎる裾を捲って、ズボンのウエストを絞ってくれた


「わぁ!流石シンスケ!」

「これで少しはまともになったろ」


さっきより断然動きやすくなった服でぴょんぴょん跳ねていたら、シンスケは私の手を握った

びっくりして首を傾げた私に彼は言った


「行くんだろ?城下に」

「うん……っ!」


反対されると思っていたのに、シンスケは私を城下に連れていってくれるらしい

なんだかんだ、昔からシンスケは優しいのよね



***



「わぁ…」

「あんまキョロキョロすんな。目立つだろ」


馬車に乗って1時間

私は初めての城下に来ています!シンスケありがとう!



キョロキョロするななんて言われても、見た事ないものばっかり何だもの

仕方ないわよね


そんな私を見てシンスケがもう一度言う


「あのなぁ、同じ格好なだけでも目立つのに…」


そうそう。髪を帽子の中に隠したら本当にシンスケそっくりになったの

似てる似てるとは思ってたけど、これほど似るなんてねー


目立つ事を気にしてるシンスケに私は手をひらひらさせながら言う


「私は気にしないわ。あ、ねぇあれは何!?」

「馬鹿!勝手に走って行くな!!」



***



「……あれ?」


しばらく珍しいものを追いかけ回していたら、シンスケがいなくなってた

まぁまぁ、あの人ったらいい年して迷子?仕方ないわね



目的を変更してシンスケを探しに向かう

いつまで一緒にいたかしら?夢中になりすぎていつ逸れたか分からないわ



「キャッ!」



シンスケを探しながら歩いていたら、通り縋りの男にぶつかって盛大に尻餅をついた

痛い……


「わり…大丈夫か?」

「こ、この無礼者!私を誰だと思って…………」


怒りまかせに言いながらバッと顔をあげて男を見た

その瞬間、胸が高鳴るのを感じた


「いや、ホント、マジでごめん。って、女の子?」

「…っ///」


白いマントを肩からかけた男は私をひょいっと抱き上げて、立ち上がらせてくれた


「お、よく見りゃ美人さんだな。なんで男装なんかしてんだ?」

「そ、それは…///」


至近距離でそんな風に言われて私は顔が熱くなるのが分かった

男はニッと笑って私を見つめてくる


あぁ、質問された事忘れそうだった

…て、なんてこたえたらいいの!?


何が何だか分からなくなってきて、とっさに口から出た言葉は





お忍びで。



「え、マジで?俺も実はお忍びなんだぜ」

「え?」


男はそう言って私の手をとって指先にキスをした


「また会えるといいな」

「///」


そう言って男は去って行く


「ま、待って!名前は?」


それを呼び止めてきくと、男は振り返らずに答えた


「“銀の国”の者でーす」

「銀の…」


それっきり、男の姿は人込みに紛れて見えなくなった


私がぼぉっと見えなくなった男の姿を見つめていると、後ろから花束が視界に入ってきた


「シンスケ?」


振り向くと花束を私に差し出してるシンスケの姿があった

でも表情は心なしか暗い…というか不機嫌みたいだ


「どうしたの?」

「なんでもねェ」


花束を私に渡してシンスケは歩き出した

その後を私はついて行く


「ねぇ、今日はありがとう」

「…あぁ」





(あいつ誰だ、なんて)

(そんな台詞格好悪くて言えるかよ)




−−−−−−−−
大分、歌と変わってきます。因みに“銀の国”の王子様は銀ちゃんですよ


2011*11*13



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