07
「…!詩想、終わったかー?」
「さーのー…おわらぬよー…」
「あと何枚だ?」
撫で撫でと、さっきまでトシの手が乗っていたところにのるさのの手。
離れて行った手は名残を残して、それでも優しく触れてくるさのの温かい手が私の全てを許してくれるような気がした。
「漢字の書き取りなんて、小学生じゃあるまいし…」
「そんなもんで済んだんだ、いいじゃねぇか。原田に感謝しとけよ」
「ぐう…」
何故か2人に見張られるようにしながら、最後のプリントに手を付ける。
あたしが書き始めたのを確認した2人は、揃って廊下に出て行った(…たばこかな?)
「どうした原田。お前らしくもねぇ、ンな顔しやがって」
「あんたにゃわかんねぇよ」
どこか口許を緩めながら、紫煙を燻らせる様は、余裕すら感じさせやがる。
詩想との、やりとりは二人が深い関係であることの現れだろう。
「どうだかな」
「あいつに剣道教えたのがあんただったんだな」
「俺ってより、近藤さんだけどな」
「型破りな型っつーか、実戦型ってのか…」
「喧嘩向きだってんだろ」
「あぁ」
「ありゃあ我流だ」
「は?」
「ガキの頃から長物つかった喧嘩が得意でな、あいつ」
ふーっと煙を吐き出して、遠くの空を眺める。
「喧嘩になったらスグに手を出すから、いつも謝りに行ってたんだが…」
「まだ、今でもそれをやってるっていいてぇのかよ」
「あぁ。お前、なんか知らねぇか?」
「…喧嘩はやってねぇよ、最近っつーか、もうずっと」
「絡まれて来たら…お前目当ての女もやっかんでくるだろ。どうしてんだよ?」
「そんな隙がねぇように一緒に居るんじゃねぇか。何のために一緒にすんでるとおもってんだよ」
「…なるほどな」
「でもま、今回のことは予想出来なかったからな…」
「そりゃ、そうだろ」
いつも、いつでも見張っているわけにはいかない。
言外にそうほのめかしながら、土方さんの眉間にしわが寄る。
「ま、なんつっても今回は女子を守ったってんだから、許してやってくれよ」
「代わりに男がボコボコだけどな」
「ははっちげぇねぇや」
笑いあいながら、教室のほうに目線をやれば。
書き取りが終わったらしい詩想が、恨めしそうに窓からこちらを見ていた。
「終わったのかー?」
「おう!」
「そっか。なら帰るか」
「そうするー!」
「ってぇ、わけだ。土方さん、心配かけちまって悪かった」
「ちゃんと首輪かけとけよ」
「はは…引きちぎられねぇやつえらばねぇとな」
煙草を消して、教室へと上がる。
わくわくしながら、プリントを土方さんに押し付ける詩想の手を取って、帰路についた。
[*prev] [next#]