04
「…何、してんだ?」
「あ、左之さん」
巡察帰りに、土方さんへの報告に行く途中。
廊下に座って部屋の様子を伺う総司と斎藤に出会った。
「中で何かやってんのか?」
「詩想ちゃんが、昨日のあの子と話してる」
「…なんで詩想が?」
「私にしかできないーなんとかかんとかって」
「…なるほど」
面白くなさそうにその場で待機している総司とは反対に
詩想の言いつけを守るべく、ピシッと姿勢を正してたたずむ斎藤。
「…なにやら、泣き出したようでな」
「詩想得意やつか。上手いしな、拷問も含め…土方さんと張れるよな」
「いや、そういうわけでなく」
「ん?ってぇと」
「あれだよ、あれ。左之さんお得意の」
「…なんだよ?」
「見てみれば?」
「…ん?」
そっと、隙間をあけて中を覗き込む。
詩想があの子を抱きしめながら、頭をなでている。
―なるほど。そういうことか。
「…まぁ、緊張の糸が解けたってとこだろ」
「ちぇー。僕の詩想ちゃんに何してんのって感じだよね」
「お前のものではない」
「はいはい。一君だってそう思ってるくせにー」
「…つーか、あの子…女だろ?」
「え?」
「な…っ!?」
バッと目を見開く斎藤はパクパクと口を開閉してるし、
総司は総司で、新しい玩具を見つけたみてぇにキラキラしてやがる。
「…んで、お前らは見張り番ってとこか」
「そ。土方さん命令でねぇー」
「…なるほどな」
「左之さんはー?」
「…お。そうだった。俺も土方さんに報告にいかねぇと」
「む。そうであったか。引き止めてすまない」
「んゃ、かまわねぇよ。じゃあな」
二人に手を振り、そのまま副長室へ向かう。
入ると、相変わらず眉間にしわを寄せた土方さんがそこに居た。
「…おう、左之か。どうした」
「いや、なに…さっきの巡察で妙な話を聞いてよ」
「妙な話、だと?」
「なぁ、土方さん。あんた…」
「なんだ?」
「…詩想に、変な仕事させてねぇよな?」
「…変な仕事だと?」
書類に向けていた目を、こちらに向けて俺を試すように見やがる。
鼻で笑って、そのまま視線を書類に戻した。
「馬鹿いうんじゃねぇよ」
「…だけどよ」
「……どこで、その話を聞いてきた」
「…玉屋だ。島原大門近くの」
「そうか…」
ソレきり黙ってしまった土方さんは考えるように顎に手をやって俺を見る。
俺はなんだか居づらいが、その場に腰を下ろした。
「…そんなことよか、いいのか。あの子」
「あ?」
「千鶴っつったか。詩想が泣かせてたぜ」
「俺に出来ねぇことをやるのがアイツの仕事だ」
「…そうだろうけどよ」
ふ、と笑って筆を置く土方さんは男の俺から見ても美男子だと思う。
その土方さんを一番近くで見てきた詩想は、よく靡かなかったもんだぜ。
「まだ何かあんのか?」
「…いや。ねぇし、戻るよ」
「そうしろ。総司と斎藤にも詩想が離れれば戻っていいと伝えておけ」
「あぁ、わかった」
そのまま、俺は部屋を出た。
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