dream | ナノ




02





「トシさんトシさん。詩想です、入りますよ」

「…あぁ」


襖にそっと手をかけて、中に声をかけると低い返事が返ってきた。

―これは、本当にお疲れのようねぇ。


「あらあら、ひどいお顔だこと」

「…なんだ、詩想。からかいにきたのなら…」

「そんなことするわけないでしょ。これを」


持ってきた盆を差し出せば、いくらか目を見開いて私とそれとを交互に見る。


「お勝手を預かっている身として、空腹の殿方を床にやるなんてできませんもの」

「巡察前にももらったがな」

「あら。では、私が食べましょうか?」


伸びてきた手をひょい、と避けて盆を下げるふりをすれば

ぐいっと手首をつかまれ、そのまま引き寄せられる。

お盆を持ったまま、トシさんのひざの上に納められて見上げれば頭にあごがのる。


「あら、あまえたさん。食べさせてほしかったんですか?」

「阿呆か」

「…ふふ。どうせ、まだ寝られないのでしょう?」

「……あぁ、まぁな」

「でしたら、早く召し上がってくださいな」

「頂戴する」

「えぇ、どうぞ」


体勢はそのままに、おむすびを食べるトシさんはなんだか愛らしい。
きっと、誰も知らないだろう。
鬼の副長と呼ばれるこの人の、こんな姿なんて。


「あぁ、島原のお姉さま方は知ってるか」

「あ?何かいったか?」

「いいえ、何でも」





「…ん、美味かった」

「はい、お粗末さまでした」

「おう」

「さてさて。じゃあ、私はこれで」

「詩想」

「はい?」

「…いや…なんでもない」

「そう?」


ふい、と目をそらして手を振るトシさんを部屋に残して、廊下に出る。
ひんやりした空気に、息が詰まりそうになりながら部屋に向かった。


「あら。ここは…空きじゃなかったかしら。どうして見張りがいるの」

「詩想か…」

「一くん、お帰りなさい。どうしたの?」

「…副長から、聞いておらぬのか」

「あぁ…もしかして」

「うむ」

「中、覗いていい?」

「…だめだ」


スッと襖に手をかけて、あけようとする私を一くんの手が止める。
その手はひんやりしていて、冷え切っているのがよくわかった。


「どうしても?」

「うむ」

「一くんの手がこんなに冷たいのに?」

「詩想、あまり騒いでは…」

「…そうね」


その両手を私の手で包んで、暖める。
少しでも、温まってくれればいいんだけど。


「…じゃあ、今日は大人しく部屋に戻るわ」

「あぁ、そうしてくれ」

「明日のお披露目、楽しみにしてるわね」

「あぁ…」


ここにつれて帰ってきた時点で、殺処分にはしないのだ。
その子が、どんな子であれ子供ならば致し方ない判断だったのだろう。

襟巻きを少し寄せて、こちらを見送る一くんに手を振って部屋に戻った。





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