寝て起きたら
ある夕方、お昼寝から目覚めると私は男になっていた。
…なんてことはない。ちゃんと変わらず女だ。ちょっと残念。
「ねぇ、お兄ちゃんの学校に男装して潜入していい?」
「はぁ?」
ソファーでくつろいでいたお兄ちゃんは食べていたプリンのスプーンを口から離して、心底『バカ』と言いたげな顔で私を見た。
失礼な。私は本気なのだよ。半分くらい。
「バカ。あんなの漫画とかドラマだけで、現実じゃあすぐにバレるっつーの」
「じゃあ女教師に変装…?ダメだ私スーツ似合わないもん」
「男装よりバレるわ。色んな意味で」
どうせ童顔ですよ。小学生に間違われることもありますよ。
せめて男子校じゃなければなぁ…どんなにレベル高くても死ぬほど勉強して入学してやるのに。
諦めに溜息を吐いたら、お兄ちゃんも応えるように溜息を吐いた。
「わかった、俺が協力してやるから」
「制服貸してくれるの?」
「違う」
期待に満ちた目を向けるとすっぱりと切り捨てられる。
そしてお兄ちゃんは妙にニヤニヤした表情で続けた。
「明日、大野を家に連れて来てやる」
「はい?」
今、なんて言った?
アシタ、オオノヲウチニ…?
「な、なななんで知って…」
誰にも言ってないのに。友達にだって言ってないのに。
「バレバレだっつーの」
何てことだ。よりによってお兄ちゃんに知られるとは。まさか本人には知られてないよね?
恥ずかしさに身悶えている私を無視してお兄ちゃんは言う。
「あいつはいい奴だし、お前には勿体ないくらいだけど仕方ない。可愛い妹のために、お前の分のプリンで手を打ってやろう」
「可愛い妹からプリン取り上げるんかい」
ここまでプリンに執着する高二男子の方がある意味可愛いよ、お兄ちゃん。
しかしプリン一つで大野先輩が来てくれるなら安いものだ。何かこの言い方じゃあ大野先輩がプリンに釣られたみたいだけど。
実際は全然違う。プリンが大好物という子どもっぽい兄と違って、大野先輩は中学の頃から大人っぽくて優しくて憧れだった。
そうか、明日ここに大野先輩が……
「どうしようドキドキし過ぎて胸が痛い」
お兄ちゃんの口から大野先輩の名前が出た時から治まらない心拍数がさらに上がった気がする。
「落ち着け。まだ来るとは限らないし、来たとしても明日の話だ」
「そ、そうだよね、明日……どうしよう今夜眠れないよう!」
「だから落ち着けよ」
あぁ、やっぱり男なんかに変身してないで良かった。
「はっ!明日の朝起きて男になってたらどうしよう…!」
「本当落ち着けバカ」
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To:微糖様(元・赤点回避様)
Theme:あしたを作りなさい。(第三回試験・図工)
Written by 織依[接吻中毒]
111004
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