恋して染まる

「遅い!」

「ごめんなさいぃ…」

腕を組んで立つ俺の前で、身長の低い身体を更に小さくして謝罪する彼女。

「今日、映画見たいって言ったのは?」

「私、です…」

「待ち合わせは10時って言ったのは?」

「私です…」

「今は何時何分?」

「10時、31分…」

俺の顔色を窺うように上目遣いで見つめてくる彼女の瞳は泣きそうに潤んでいる。

…可愛いな、こいつ。

でもいくら可愛くても、遅刻は遅刻。そう簡単に許すわけにはいかない。

可愛い彼女の30分の遅刻ぐらい許してやれよ、と思うかもしれない。
しかしこれは彼女のためでもあるのだ。
時間を守る。これは日本の社会ではとても重要なことだ。学生の彼女はまだ自覚が足りないからこうやって俺からも言い聞かせて………まぁ、一番は待たされた俺自身のために言っているのだが。

待ち合わせの時間から彼女が来るまでの30分間、俺がどんな気持ちでいたか、彼女は知らない。

5分を過ぎたころから、何かあったのか、と思い始め、10分にはメールをしてみた。しかし彼女からの返信はなくて、20分過ぎたころに電話した。『お客様のおかけになった番号は、現在電源が入っていないか…』のメッセージに落ち着かず、その場をウロウロウロウロ。すれ違いになったらいけないからその場を離れ、迎えに行くこともできない。もう一度電話をかけてみようと思ったとき、小走りで来る彼女の姿が見えてやっと俺は安心できた。

そして安心したら彼女に一言、言ってやりたくなって……今に至る。

「遅刻の理由は?」

わざとらしく溜め息をつきながら尋ねる。

「えっと、その、今日着ようと思ってたスカートをね、お母さんが洗濯しちゃってて、代わりのスカート選んだら上の服と合わなくなって…」

つまり、身支度に時間がかかったというわけか。
必死に言い訳をする彼女の服装を見てみる。

白い、ふわふわしたスカートに、薄いピンクのブラウス。普段ストレートの髪を今日は軽く巻いて、化粧までしている。

……ちくしょう可愛いな。

この彼女なりの気合いの入った格好が俺とのデートのためだと思ったら、遅刻への怒りも段々薄れてきた。

「…理由はわかった。もう遅刻しないか?」

「うん。次から着る服は前の日枕元に準備しとく」

…そういうことを言っているのではないのだが。何処かずれた反省をしている彼女を見つつ、まぁそろそろ許してやろうと決めた。

「よし、じゃあ最後に一つお仕置きをしてから、許そう」

「お仕置き…?」

彼女が許されることへの嬉しさと、得体の知れない『お仕置き』への不安とが混ざった微妙な表情をして見上げてくる。

「デコピン1回」

「えぇ?」

「おら、デコ出せ」

彼女の小さな頭を掴んで、前髪をよける。
彼女は目を瞑ってビクビクしながらデコピンを受ける準備をしていた。

「動くなよ…」




…チュッ




「ふぇえ!?」

「は、顔真っ赤」

フェイントでキスしてやったら、彼女は思った通りの反応をした。

「な、なんで、デコピンって言ったのに、キス、」

「あれ、痛い方がよかった?」

「そ、そーいうわけではっ」

ますます顔を真っ赤に染める彼女をニヤニヤと見つめていると、彼女が俺の顔を見て、何かに気がついたように指差した。

「…付いてる」

「え?」

「口紅」

唇を拭うと手の甲にうっすらと赤い色がついた。今日の彼女が珍しく化粧をしていたからか。

「…映画始まる」

「わっ」

その色を見ていると何故だか急に照れてきて、熱くなる顔を誤魔化すように彼女の手を取った。





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To:微糖様(元・赤点回避様)
Theme:赤色に変化するのは。(第五回試験・化学)



Written by 織依[接吻中毒]

110707

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