短編 | ナノ


黄昏時はとても悲しい気持ちになるのは何故だろう…今日も空を眺める。ハイラル平原の彼方にある一つの墓…アヤメは黄昏時にいつもここに来ていた

大好きな人だった魔王ガノンドロフ。彼はアヤメにとって大切な人物だった。しかし世界とは残酷な物だとつくづく思う。この時代の彼は勇者リンクによって倒されてしまった

アヤメはいつものように花束を墓の前に置く

『今日も来ましたよ。ガノンさん』

そういいながら前に座る。墓の前にはたくさんの花束が置いてある。これは全てアヤメが持って来たものでハイラルを陥れようとした魔王の墓参りには誰1人も来なかった。それもその筈、過去にもハイラルを陥れようとした大魔王だ。誰も来るはずがない

そう思うと何だか悲しい気持ちになるのは何故だろう。アヤメは座ったまま空を見上げる

『ガノンさんが居ないとこうも静かなんですね』

空を眺めながらポツリと呟く。これまでの事を思い返せば沢山の出会いや戦い、そして別れを体験して来た彼女。色んな事があったなぁと心の中で思いながら小さく微笑む

しかしその笑みは直ぐに消えた。大切な人が居なくなるという事はかなりにも代償が大き過ぎる。アヤメは自分の胸をぎゅっと抑えながら震える声で呟く

『私、ガノンさんと過ごした日々…とても楽しかったんですよ。だから…』

震える声を振り絞ろうとしたがこれ以上は言葉は出なかった。代わりに自分の瞳からは涙が溢れ出る。息を殺しながら泣くアヤメの背中は何処か頼りなくて小さく見えた

すると風がふわりと吹いたかと思えばパサりと自分の肩に布が被る音がした。アヤメが振り返るとそこには…

『…え?』

アヤメが驚くも無理はない。彼女の肩には魔王ガノンドロフのマントが被さっていたからだ。一体何処から…と辺りを見渡すが誰も居ない

一体誰が…と思うもアヤメは心が暖かくなった。ガノンドロフが慰め程度にマントを掛けてくれたのだろうと思うとまた瞳からは涙が溢れる

『ガノンさん…』

墓の前でポツリと彼の名前を呟く。心の中でありがとうございますと感謝の気持ちを述べれば涙を拭き、墓の前でまた手を合わせる。そろそろ夜になるのかアヤメはおもむろに立ち上がり、肩に掛かっている彼のマントを大切にしようと思ったアヤメは

明日も来ますねと一言残してその場を立ち去っていった

例えこの世界に貴方が居なくても、私はずっと一緒に居ますからーー…

END





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