短編 | ナノ

 冷たい水を求めて食堂に足を運んだガノンドロフは、そこで椅子の背に一人寄りかかるアヤメの姿を目にした。じとりと首筋に張りつく髪を鬱陶しげに払いながら振り返ったその口には、何やら棒状のものをくわえている。

「また何ぞ食ろうておるのか、アヤメ」
「だって暑いんですもん」

 持ち手を摘まんだ彼女は、ちゅぽんと唇からそれを引き抜く。年少のファイター達がよく口にしているアイスキャンディーに形は似ているが、色は全くついていない。

「ただの氷ではないか」
「作ったんです。ふふふ、賢いでしょう?」

 夏太りせずに済みますしね、と彼女は得意気に笑う。冷蔵庫に常備された水を飲む方が、遥かに手間がかからぬだろうに。氷の棒を伝う雫を舌で舐め取るアヤメを眺めながら、呆れ返ったガノンドロフはため息をつく。

「ガノンさんも召し上がります?」

 濡れた光を照り返す氷を差し出して、アヤメはゆるりと微笑む。稚拙な誘惑を軽く鼻で笑い飛ばした彼は、小さなその手を掴んでどかすと、やにわに唇を重ねた。ひやりとした感覚が火照った身に心地よい。彼は熱を持った舌を彼女の咥内にねじ込み、冷えきった内部を心ゆくまで犯していく。
 涼をすっかり奪い尽くして一息つくと、彼は融けた氷に濡れた己の指を舐め上げる。

「冷たいな」
「……あついです」

 不満げに眉を寄せながら、アヤメは氷を喉の奥までくわえ込む。茹だった蛸のように真っ赤な顔を見下ろして、ガノンドロフは低く喉を鳴らして笑った。





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