短編 | ナノ

(タイトル:永人様より)

「今日はやけに上機嫌だな」

 乱闘ルームへと向かう道すがら、フォックスはいつにも増して軽やかなアヤメの笑みに目を留めて指摘した。彼女はわずかに視線を泳がせ、次いで照れ臭そうにはにかむ。

「分かっちゃいました?」

 大したことじゃないんですけどね、と前置きしてから、彼女は語りだした。
 数日前、中庭で子供達とかくれんぼをしていた彼女は思いもかけず、はっとするほど鮮やかな青い蕾を見つけたらしい。それ以来、毎日こっそりと中庭を訪れては見守っていたのだそうだ。

「今朝見たら咲いてたんですよ。それで、嬉しくて」

 静かな声を明るく弾ませたアヤメの表情がふわりと綻ぶ。だが、微笑ましげに自分を見つめるフォックスの視線を意識したのか、頬に手を当てて眉根を下げた。

「その、なんだか、ちょっと子供っぽいですよね」
「そうか? 俺は女の子らしくていいと思うぞ」

 ふと前を向けば、目的の部屋はすぐ目の前だった。いつも通り乱闘ルームWが空室であることを確認した彼は、ドアを開くとその脇にある明かりのスイッチを入れる。扉を支えながら振り返ると、アヤメは廊下で立ち尽くしてじっとこちらを見つめていた。その頬は心なしか淡く色づいている。

「どうした?」
「……なんでもありませんよ」

 首を傾げたフォックスの視線の先で、アヤメはやわらかく微笑んだ。





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