それは確かオレが風呂からあがってきた時だった

白いソファで寝ている黒鋼さんをちら見して視線をそのままキッチンに移す


そこにはサクラとモコナが真剣な顔で何かを作っていた

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(「姫、」)
そう言葉を口にしようとした時どこからかにゅるりとファイさんがオレの肩を掴んだ
顔を近づけてオレの耳に囁く

「サクラちゃん、チョコ作ってるんだよ。小狼くんに。」
ファイさんが小さな声で喋るからオレも自然と小さくなる

「チョコ、ですか?」

うんと小さく目でコンタクトをうつファイさん

「今日はバレンタインデーだから、ね」

「バレンタインデー…ですか?」

何も知らないオレはファイさんの話を聞くだけだった

「バレンタインデーっていうのはねー、女の子が好きな男の子にチョコを渡すっていう日なんだよ。」

「え、そうなんですか!?」

にこっと屈託のない笑顔を見せるファイさんは、ぽんと肩に掛けていたタオルをオレの頭に被せる

「そ。だから今はそっとしといてあげて」


タオルの隙間から見上げたファイさんはまだ笑っていた


タオルを被せたまま黒鋼さんが寝ているソファにちょっと腰を掛ける
黒鋼さんの邪魔にならないようにして
って言っても黒鋼さんはきっと起きているんだろうな

目はつむったままだけど

ふとキッチンからチョコの匂いが漂ってきた
甘い甘いチョコの匂い


「おい。小僧」
ファイさんとは真逆な大きな声で黒鋼さんが口を開いた

「ちゃんと受け取れよ」
と腕を組みちらっとキッチンを見る
まだ姫は悪戦苦闘中みたいだ
「はい。勿論です」

オレの答えを聞くとまた静かに黒鋼さんは目を閉じた
やっぱり熟睡してなかったんだ
黒鋼さん疲れてるのにな



20分後

「「できたー」」
2人の黄色い声に沈みかけていた意識が引っ張られる

ぼやける視界をこすっていたらボトっとタオルが床に落ちた

拾おうと手を伸ばしたらファイさんが先にタオルを掴んでいた

「大丈夫?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「出来たみたいだね、サクラちゃん」

「みたいですね」



そーっとキッチンから出てきたエプロン姿のサクラ
手にはお皿に綺麗に飾られたフォンダンショコラが2つ

「あの、小狼くん。これ受け取って欲しいの」

「ありがとうございます」

ぐいっと差し出されたフォンダンショコラをテーブルに置いてあるフォークを使って頂く

口に入れれば暖かいチョコが口の中いっぱいに広がった

「美味しいです、姫。」
短い感想を言えばサクラは真っ赤になって良かったと小さく笑う

「モコナも手伝ったの!」
ぴょんとテーブルに上がってきたモコナはぱくっともう1個のフォンダンショコラを口にほおばった
「あっ、オレの」

「とっても美味しいのー」

「まだキッチンにあるから小狼くん」

サクラの顔を見たらファイさんに負けないくらいの笑顔
太陽にも負けないくらいの
つられてオレも似合わない笑顔をサクラに見せる

誰が決めたのかわからないバレンタインデーに今日は感謝しようと思う
(ちゃんとお返ししますね)
(楽しみに待ってます)










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