(やっぱり小狼くんにはビターだよね)


ぺらり。雑誌のページをゆっくりめくる
表紙の真ん中には大きな苺のショートケーキ。真っ赤に熟れた苺の側には砂糖で作られたサンタが顔をのぞかせていた


ビターチョコレートケーキ





世間はクリスマスムード一色で夜になると綺麗な色で点灯するイルミネーションが目立っていて見ててなんだか嬉しい気持ちになる


年を重ねる度にイルミネーションが派手になっていく気がする
だから見飽きないのかな

さくらは考えながら今まで見ていた雑誌を鞄にいれる

(小狼くん…)

いつも忙しい彼は今年もクリスマスを一緒に過ごせるかわからない
仕方ないと自分に言い聞かせる

我が儘なんていっていられない

「家に帰ったらさっそく作ってみよう」
忙しくて会えないが小狼の為にさくらは毎年クリスマスになるとケーキを作って小狼の家に届ける
もうそれが当たり前になるくらいに時を過ごしていた

ただ、届ける度に小狼が見せる申し訳なさそうな顔を見るのは少し辛い




雑誌に赤く丸をつけたビターチョコレートケーキ

小狼が好きそうなケーキを選んだ今年はコレを作るという目印の赤い丸



「小狼くんは甘いのよりほろ苦い方が好きだもんね」
1人で小狼を思ってにこにこするさくらは次第に頬を赤く染める

一緒に過ごす時間は少ないが会えるって事だけで凄く温かな気持ちになる





さくらは家に着くなりエプロンをつけさっそく作業に取りかかった


買っておいたビターチョコレートをいっぱい使ってそれを湯煎する
とろとろになるとビターのいい匂いが部屋中に広がり始める

焼きたてのスポンジ生地にクリームを塗ってビターチョコレートをコーティングするようにヘラを使って丁寧に丁寧に塗っていく

少し飾り付けをして冷やせば完成

「ふー。出来た」
「今年はチョコケーキなんか!?」
ひょこっと顔を出したのはケロちゃん。
お菓子には目がないほどの食いしん坊

「うん。小狼くん、ショートケーキとかよりこっちの方が好きそうだから」

「小僧のくせに生意気やな…ケーキ選べるなんて…それよりさくら!わいの分は!」

「あるよ。ちゃんと作っておいたよ。ケロちゃんには苺いっぱいのショートケーキね」
さくらがそう言うとケロちゃんは目をきらきらしながら大きく頷いた

「わーい!さくら。今年もありがとな」

うんという返事の代わりににっこり笑った

その後はケロちゃんと一緒にシャンメリーを飲んで2人で『クリスマス』を楽しむ

お腹いっぱいになったケロちゃんはスプーンを抱えたまま幸せそうに寝てしまった


ケロちゃんを部屋へ連れて行ってそのままベッドに寝かせた後さくらは小狼の家に向かう準備をする


綺麗に包んだチョコレートケーキをしっかり持って



やっぱり外は風邪が冷たくてどんなにイルミネーションが綺麗でも寒いと何かが寂しい
小狼くんがいない

ただそれだけなのに
毎年、こうやって過ごしてきたはずなのに

隣にいないのが凄く悲しい

小狼の家までの道のりが遠く感じる

見てるだけで嬉しくなるイルミネーションも何故だか今は虚しくなるだけ



「小狼くん…」
ぽそっとケーキの箱にむかって呟いた


「さ、くら?」
「え?」

そこには温かい格好をした小狼が立っていた
突然の事にさくらは目を丸くする

「やっぱり、さくらだ。今行こうとしてたんださくらの家」
「え、え。小狼くん?本当に小狼くん?」

「本当におれだよ。時間出来たからさくらに会おうって思って」
さくらに近く小狼
街灯とイルミネーションのおかげでさくらの顔が見えた

「だって、小狼くんいつも…忙しく…て、っ一緒に過ごせない、から…」

「さくら…?」
さくらの顔を覗いてみると瞳から涙が出ている
「本当は…、クリスマス一緒に過ごしたいの」

顔を真っ赤にして聞こえるかわからないくらいの小さな声で

「でも、小狼くん忙しい…からそんな事いえな…くて、っ」
さくらの頬に一筋涙がこぼれる

「やっぱり、無理させてたんだな」
「ち、違うの!ただ…ただ」
さくらが言い終わる前に小狼がさくらを引き寄せる
一瞬さくらの目の前が真っ暗になった
でもすぐに小狼に抱きしめられているのがわかった

(あったかい)

「ごめん。さくら、いつも寂しい思いさせて、ケーキ一緒に食べられなくて」
ぎゅっと腕に力が入る
小狼の顔を見たら悲しそうに悔しそうな顔をしていた


久しぶりに見た気がする。小狼くんの顔

「ううん。あたしこそごめんね。…今年のクリスマスプレゼントは最高だよ」

「なんで?」

さくらはしっかり小狼の顔を見た
「小狼くんに抱きしめてもらえたから」
さくらが得意の笑顔を見せる
小狼の顔は真っ赤だ

「…おれ、まだプレゼントあげたつもりないんだけど」
「え?くれるの!?」

こくんと頷いた小狼は少し間をあけてさくらの顔をとらえ、そっとさくらの唇に口付けた

「っ!」
びっくりしたさくらだがすぐに落ち着いて
体を小狼に預ける
小狼のキスは甘くて、背中がぞくぞくした
やっと離れた唇はニヤリと笑っていてとても楽しそう

「しゃ、小狼くん!」
「これがおれからのプレゼント」
「…、嬉しいけど、恥ずかしいよ」
真っ赤にした顔を隠しながらさくらは小狼の手を引いた
勿論行き先はさくらの家

くすくす笑いながらさくらが持ってきたケーキ箱を手に持って道を戻った




(ケーキちょっと崩れちゃったね)
(崩れてても美味しい)
(良かったあ)
(でも、さくらの方がもっと美味しい)
(小狼くん!?)









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