外からざぁざぁと水の雫が地上目掛けて降っている
雲はどんよりと暗く時間を掛けて動いていく









雨の匂いとあなたの匂い







小狼とさくらは恒例となった定期テストの勉強を小狼の家で行っていた
窓からは冷たい雨が降り注いでいるのがわかる



「雨…やまないな」
窓の方を一瞥しながら小狼は呟く
隣には"ふんわり"といった擬態語がよく似合う、さくらがそれに応えた


「そうだね。小狼くんは雨、嫌い?」


綺麗な翡翠色の瞳を瞬かせて未だにやむことを知らない雨を見つめる
うっかり、その翡翠の瞳に見入ってしまった

「そう…だな、あまり好きじゃないかもな」

瞳から窓、窓から自分の手に収まるシャープペンに視線を移し、ぼんやりと目を細めた

すっと立ったさくらはカーテンを開き窓の外をゆっくりと眺めた
もう紫陽花がほんのりと薄く、朱だったり青だったり雨の精気を蓄えて咲いていた

「わたしは…好き…だなあ」

頬杖をついてそっと片手で窓を開く
瞬間から身震いするようなでも体の中が浄化されるような冷たい空気が小狼の体全体と部屋を通り抜けた

「きもちい…ね、小狼くん」

こちらを向いて小さい雨粒と風を受けながらさくらはにっこりと笑った
さらさらの髪がさくらの顔を包んでいてさくら自身が発する、独特の甘い良い匂いがした
それは風にのって小狼の辺りに散る



「なんでさくらは雨が好きなんだ?」

小狼はシャープペンの下にある参考書に目をとうしながら
おもむろに問い掛けた
部屋の空気が微かに動いた気がした
それはもしかしたらさくらの息が小さく空気中でうねってそう感じたのかもしれない


「うーん、雨に濡れるのはあまり好きじゃないの、風邪ひいちゃうでしょ?。雨の綺麗な空気と匂いが好きなの」


雨が降った後は汚い空気も雨粒と一緒に下に落ちていって空気が澄む

その清々しい空気と独特の爽やかなあの匂いが好きとさくらは言った

暗い気持ちも一緒に流れちゃうよねと加えて

「でも、それって雨がやんだ後じゃないのか?」
「あや?そ、そうだね…」

さくらは眉毛を八の字にしながら少し困った顔をした
それからまた窓の外をみる

「さくらは雨の匂いが好きなんだろ…?」

「う、うん」

「おれが好きな匂い、知ってるか?」
さくらは首をふるふると横にふった
その子猫みたいな仕草はとてもかわいらしいなと思う


小狼はさくらに自分の近くにくるように手で合図した
「ほえ?」

隣に座り込んださくらの耳元に近付き内緒話をするように小狼は囁く

「(おれが好きな匂いは、さくらの匂いだ)」

みるみるうちに顔を赤くするさくらをみて小狼は悪戯に笑った
さくらは真っ赤になりながらも小狼の顔をみる
その瞳は甘く疼いていてその瞳に吸い込まれてしまうくらいに綺麗なものだった

小狼はさくらの肩をぎゅっと掴みそのまま自分の方へ引き寄せた

「…っ」
さくらが息を詰まらせる
驚いたのだろう
小狼はさくらの首に顔を擦り寄せる
綿菓子みたいにふわふわしいて、でも甘ったるくない懐かしい匂いがした

とても心地よい

「小狼くん、くすぐったい」
さくらは小狼に抱きしめられた体を動かした
2人にほんの少し隙間ができる

小狼も自分のした事に後から恥ずかしさが募ってきて顔を赤く染めた
「、悪い」

さくらの顔を直視出来なくて俯きながらいった

「小狼くん、」

ふいに呼ばれて小狼はさくらの顔を見た
まだ顔が火照っているのが分かるが仕方ない

「ん?どうかしたか」

また、
鼻孔からすっと舞い込んで来た匂い


さくらの匂い



しばらくしてから
小狼はさくらに抱きしめられている事に気づいた
自分の胸元で小さく顔を埋めてさくらは目を閉じる
何かを感じるように
それは雨上がりの澄んだ空気でも爽やかな匂いでもない匂い

「さ、さくら…」

「やっぱり、雨上がりの匂いより小狼くんの匂いの方が好き」

体が微かに動いた
さくらの温もりを直に感じて

心臓がうるさく波打つ

さくらがまたぎゅっと強く抱きつく
さくらが動く度にふわりふわりと甘い匂いが鼻孔を掠める

小狼は静かにさくらの背中に腕をまわした


あんなに煩く降っていた雨の音はもう聞こえない

カーテンから覗くキラキラした光が眩い
清々しい空気と綺麗な澄んだ匂いが部屋を満たす

外にひっそりと咲く紫陽花は光に反射し淡い色をより強調した
風と一緒にザワザワ動くそれは抱き合う2人を真似しているかのよう

(もう、雨はやんだらしい)








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