バレンタイン突発企画
(2020ver.※不思議少女の楽曲のみ)
※新テニが始まらずに卒業式を待つ&手塚は三月ドイツ予定。リョーマもいる二月設定
※(キャラ名)はその話の視点人物
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始まりはチョコレート
それはとても寒い冬の日の朝の出来事だった。
それまで暖冬だなぁと油断していたせいもあるけど、思わず起床時に「くちゅんっ!」とクシャミをしてしまった。
よし、あれだ。今日はしっかり着込もう。
見慣れた氷帝の制服の上に、冬物のロングコートを着て、マフラーと手袋、それからお気に入りのパンダ型耳あて帽子を装着。
何回みてもパンダ耳あて帽子が可愛すぎる。若干イロモノ感が強い気がするが、気にしないでおこう。
「詩織ちゃん、おはよう〜!」
「詩織、おはよう」
学校に着いて教室へと向かうと、教室前の廊下でタマちゃんとちーちゃんに会った。
2人とも可愛らしいマフラーをしていて、淡いベースの色がそれぞれ2人によく似合っている。
「2人ともおはようだよー!」
へらって笑いながら教室に入れば、朝練に出ていたのか既に隣の席には若くんが座って筆箱を机の上に取り出していた。
「若くんもおはよう!」
「……あぁ、おはよう」
いつもの難しそうな表情で若くんが挨拶を返してくれる。笑顔じゃないのはいつものことなので、もはや恒例行事だ。
「ところで詩織。もうすぐバレンタインね」
ちーちゃんの一言に鞄から荷物を出していた私はびっくりして顔を上げた。
「チョコくれるの?!」
「私も欲しい〜」
「いや、そうじゃないでしょ。もちろん、二人にはあげるけど……それとは違って……誰かにあげたりはしないのかって聞いてるのよ」
ちーちゃんが咳払いをしながら、私とタマちゃんにチラチラと目配せをしているようだ。
タマちゃんが「は!」と短く声を上げる。
「そうそう〜!もちろん、私は跡部様にあげるわよ〜」
「おお、タマちゃん、すごい!跡部様たくさんもらいそうだよね!」
私の言葉にちーちゃんとタマちゃんが目を見開いて私を見ていた。
え?
なんでそんな変な顔するんだろうか。
「???」
「い、や、あの。詩織は誰かにあげる予定は……?」
ちーちゃんがちらりとどこかに視線を送っているが、今のところ私にはバレンタインにチョコをあげるような相手などいない。
「あ!長太郎くんだけにはあげなきゃ!!」
「っ」
ガタガタっと派手な音がして、隣を見たら若くんが何やら珍しく教科書か何かを床にぶちまけていた。
ドジっ子な若くんは珍しいので、とても可愛らしいなぁとニマニマしてしまう。
「……お、鳳だけなの?」
ちーちゃんは一体何を気にしているのだろう。
「えっとね、長太郎くん、その日誕生日なんだって!プレゼントはあげたいなって」
「……詩織ちゃん、あのね〜、バレンタインに普段お世話になっている人達にお返しみたいなのもいいと思うよ〜」
私の考えを聞いて、こほんっとタマちゃんがそんなセリフを続けた。
「は!大丈夫だよ!タマちゃんにもちーちゃんにも流夏ちゃんにも作るよ!榊おじさんにも!」
タマちゃん、そういえば甘いもの好きだったなと思って慌てて答えたら、フルフルと首を横に振られる。
「嬉しいけど〜そうじゃなくて〜!」
「詩織、この際はっきり言うわ。テニス部の子達、バレンタインチョコ欲しいんじゃないかしら?」
「……テニス部……」
そして隣の席を見た時には、若くんの姿はそこにはなかった。
いつの間に出ていってしまったんだろう。
ホームルームも始まりそうだし、御手洗だろうか。
「……バレンタインチョコ、男の子ってもらったら嬉しいのかな」
ぽつりと呟いたセリフは正直な気持ちで。
私なんかのってのもあるし、お世話になってますの気持ちでも同じ年頃の男の子たちに渡していいものなのかなって迷っていた。
「嬉しいに決まってるよ〜!っていうか、詩織ちゃんのなら、みんな待ってるよ〜?!」
「そうよ。私の最近の生計を支えてくれてるのよ。詩織は。ここらで飴をぶら下げておかないと、売上にも響いちゃうわ」
タマちゃんとちーちゃんが珍しく鼻息荒く言うので、少しおかしかった。
でも、もし喜んで貰えるなら……と考えて、うんっと大きく頷く。
「私、頑張るっ」
ぐっと握り拳を作って、跡部様ほどでは流石にないけれど、榊おじさんの財力を少しだけ頼らせてもらおうと思うのだった。
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