すべて熱気のせいにした
「どうや?ライブ会場は」
「すごい人だね、もう魂飛んでいきそう」
「粘着テープでもボンドでもええから、魂引っ付けとけや」
鼻で笑って、詩織の手を握る。しかも指と指の間を絡める恋人繋ぎっちゅーやつで。
詩織は顔をあげてぎょっとしたような表情をしとったけど「迷子ならんようにや」と大声で言ったら、納得したみたいやった。
ほんのり赤くなっているのを見て、俺はニヤリと笑う。
東京で俺が好きな海外バンドのライブがあるいうから、詩織を無理矢理誘ってみた。
ヴァイオリンを多くの人間の前で演奏するための役にも立つんちゃうかとか適当なこと言って。
案の定詩織は付いてくることにしたらしい。ほんま、俺の手のひらでよう転がってくれるわ。
ライブ中、詩織はえらくテンション高くて。
設備や音響にも敏感に反応しとった。
ギタリストなどの動きなどにも注目しとって、俺が握ってる手のことなんか忘れとる。せやからちょっとムカついて詩織の手の甲にキスを落とした。軽く唇を触れさせただけやったけど、気づくやろ思うたら気づかんくて。
悔しいから指を軽くかじったった。
「はい?!」
「マーキング」
「光くん、どうした?!意味がわからないよ?!てか、本当に歯形ついてるし!」
どうせこんなもん、すぐにとれるわ。
ほんまこれにマーキングするにはどうしたらええんやろ。
「……で、感想は?」
ライブ後、近くの喫茶店でアイスティーを飲みながら尋ねたら、詩織はひどく興奮した様子やった。
「うん、すごかった!私もヴァイオリンであれだけの人を感動させられたらいいのにっ!」
「詩織なら、大丈夫やろ」
楽しそうに話す詩織に笑うと同時に無性に寂しくなる。
ほんまに、詩織を閉じ込められる鳥籠とかないんやろうか。
それか、俺のもんやってわかるような強力なマーキング方法探したんねん。
終わろうとしている二人っきりのデートに舌打ちした。
今日と言う日が終わらんかったらええのに。
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