大惨事

――何度願ったことだろう。
あの馬鹿げた遊戯の出来事がすべて夢で、あのおかしな異世界のこともなかったことだったらと。
ついでにあのすっかり現代になじみ始めた武将共も綺麗さっぱり消えてくれたらと。

「……確かに毎晩祈ってたよ、アタシは確かに願掛けしてたよっ」

「あはー。それもう呪いだよねー」

苦笑している忍クンを無視して握り拳を振り上げたら、その手首を誰かが掴んできた。

「菊ちゃん。壁を殴ったりしちゃダメですよ。それで怪我しちゃったりしたら、(私が)困るでしょう?」

菊ちゃんがいなくなったら、私が不便で色々と面倒じゃないですか。という心の声がにじみ出ている笑顔を浮かべる夢子お嬢に思わず鼻血が垂れた。

「お、おいっ、菊一、お前さん、本格的にヤバいぞ」
「菊一、ふ、ふふ。遂に私の域まで達しましたねっ!いいっ、いいですよぉ!!」

とりあえず、徳川の声は無視して明智の変態に蹴りを入れておく。


――目覚めたら、夢子お嬢がドSになっていました。なんて誰が考えつくだろうか。

「……っ、私の夢子がっ、坂田貴様らに毒されたではないか!責任を取り、私に斬滅されろっ」
「いやいやいやなんで俺のせいになるわけ?!俺らだってもうドSキャラはお腹いっぱいなんですぅー、もうその枠はみ出すくらい埋まってるんでーつか、俺だって元の夢子ちゃんの方がいいっつぅーんだよコノヤロー」
「……やれ、それよりも三成。私の、と言ったか……ヒヒヒ」
「あぁ、確かに聞こえたね」
「は、半兵衛様までっ」

平常通りの石田三成たちは置いとくとして。
とりあえずは、やはり性格が変わってしまった夢子お嬢をどうするかである。

「Hey,honey!何か変なもん香がされたりしたのか?」
「……独眼竜は私を疑っているようだね。だが今回は存じぬよ」
「フン。貴様の申すことなど信用できるか」

伊達馬鹿宗がお嬢に近付いて松永を睨むが、当の本人は肩をすくめて首を振っていた。毛利が吐き捨てるように続けても、薄い笑みを浮かべるだけで変化はない。

「……政宗さん」
「ん?」

そして注意を松永に向けている間に、夢子お嬢が伊達に口づけを交わした。
神楽と新八たちには志村家に行ってもらっているので、その部分では安心だが、夢子お嬢自らそうする行動を見せられたこちらの心境はかなり悪い。
いや、何度か仕方なくお嬢からというシチュエーションはあるが、今さっきのお嬢の表情が色っぽ過ぎて、悔しさで死にそうである。

「ひぃっ、菊ちゃん、今度は口から血が垂れてるんだけど?!」

だ、大丈夫かい?!とアタシの肩に手をおいた前田はいいやつだと思うが、今はそれどころじゃない。
すぐに狼の姿になった伊達をギリギリと睨みつけた。

「ふふ、政宗さん可愛いですね。……お腹なでられるの気持ちいいですか?くす」
「く、クゥーン……っ」
「ま、政宗様……!」
「夢子殿、破廉恥ーっ!だ、だがそ、某もぜぜぜひ夢子殿に全身なでなでされて、ゴロンゴロンしたいでございまするっ」
「さ、真田の旦那が壊れた?!」

明らかに嘲笑を浮かべている夢子お嬢に眩暈がする。
いや、真田とかの言動にも色々とツッコミたいわけだが。

「ふふ、幸村さんなら……狼にならなくても、こちらをつけてくださるだけで、なでなでしてあげますよ?」
「ちょっとぉお?!あの子首輪とか取り出しちゃったけど、大丈夫ぅ?!銀さん、もう見てらんないんだけどぉおっ」
「お、お嬢が笑顔で首輪を……ぶはっ!」
「ちょ、菊一サァアン?!新八がいない今アンタがツッコミじゃねぇのぉお?!さっきから一番人としてダメな気がするんですけどォオオ?!」
「はぁはぁ、成長しましたね、夢子っ……!あぁ、嬉しいですよぉ」
「それからこっちの変態は通常運転んんっ!つか、ツッコミ切れネェ!!アンタらさっきこの世界が夢子ちゃん変にしたみたいに言ってたけど、そっちも十分おかしいよね?むしろ変だよね?変態の巣窟だよね?!」

坂田のまくし立てるようなツッコミを聞き流しつつ、鼻血を袖で拭う。
ちょうどお嬢が全裸に犬耳や尻尾をつけて真田の横で同じように寝転がって待機していた黒田を踏んでいた。
「なぜじゃあ」と口にしていたが、もはやその台詞をよく口にできたなと感心する。

「夢子。俺はいつものお前がいい。だから、早く戻ってくれ」
「わ、ワシもだっ」

それから長曽我部と徳川が必死に説得しようと夢子お嬢に詰め寄るが、逆に涙目になったお嬢に言い負かされ始めた。
……どうみても嘘なきだが、それにオロオロし始めた二人が面白い。いや、たぶんアタシも勝てないが。

「……夢子君」
「夢子よ」
「夢子」

その後に溜め息混じりに夢子お嬢の名前を呼んだのは、竹中、毛利、片倉である。
竹中と毛利は何が原因なのか探ろうとしている様子で、片倉の方は人格が変わっていると理解しつつも納得できていないのか説教を始めていた。


「……小太郎さん、佐助さん」

ドSになっているらしい夢子お嬢にとって、その三人は煩わしいものでしかないのか、すぐに風魔と猿飛の忍クンたちに助けを求めた。

「…………」
「はいはいーっと。ま、俺様らに任せといてよ」

夢子お嬢を抱きかかえて、忍クンたちが姿を消す。
消える寸前に二人が浮かべたのは黒い笑みで。

その後暫くして戻ってきた夢子お嬢がドSからドMに変化していたことについては何も言うまい。



……次の日には元の夢子お嬢に戻っていたのだった。

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