ゲーム大会してみた
「……つぅか、なんだよこの人数。こんなんで何のゲームするつもりだよ」
「……人数につっこむくらいなら……自分が参加しないければいいと思うんだけどなぁ。大体俺らに言われても……言い出したのは詩織だし」
俺が頭をがりがりかきながら文句を口にしたら、ボソボソと不動峰の伊武に嫌みを言われた。
前から夢野とも仲のいいらしいところを見ているので、呼び捨ても加わってめちゃくちゃイラっとする。
「まぁまぁ!せっかく同学年で交流しようぜっていう夢野の企画なんだからよ。楽しまねーといけねーなぁ、いけねーよ」
「そうそう、楽しもうーあはは」
「そ、そうだね!」
「……ウス」
青学の桃城と山吹の喜多が脳天気そうに笑って、同意した鳳と樺地に、はぁっと肩を落とした。
今この跡部さんが夢野のワガママに付き合うように用意してくれた部屋には、青学の桃城と海堂。山吹の室町と喜多。ルドルフの不二。四天宝寺の財前と不動峰の伊武、神尾、石田の三人。それから俺と氷帝の日吉と鳳、樺地である。
本当は六角の天根や不動峰の他の二年たちもくる予定だったらしい。
「……つか、格闘ゲームにしろ、こんな人数でやるもんじゃねぇだろ」
「……ホラーゲームとかな」
ぽつりと漏らしたら、壁際に立っていた日吉が涼しい顔でそう言ってきた。
「いや!ここはレースゲームかもしんねぇぜ!」
「あの馬鹿だったら、リズムゲームだろ」
桃城と神尾も続いて「……クイズゲームだったりして。あぁ、違うって言いたいんだろ……わかってるけどさ」と伊武も呟き始めた。
「……ふしゅー、動物のゲームかもしれねぇ。ほら、ヤツの好きなパンダとか……」
「うわっ、それありえる!」
海堂の台詞に俺が声を上げれば、全員が顔を見合わせて微妙な表情になった。
ともあれ、夢野が来ねぇと真相はわかんねぇなと頭をかいたら、石田が「……あぁ、来たみたいだぞ」と扉を見つめる。
「こんにちはー!どうもどうも」
「……テンションうざいっすわ。詩織」
「光くん、ひどい!」
登場すぐに財前に溜め息をつかれて、大袈裟に落ち込む夢野はめんどくさかった。
室町が声をかけて慰める様子を見せると、夢野は復活する。
「……それで、結局何するつもりなんだよ、あんた」
「じゃじゃーん!これですともっ」
「「……と、きめきガールズライフ……?」」
不二と室町、鳳が同時に読んで口に出したゲーム名に寒気がした。
「それ、いわゆる乙女ゲームってやつじゃねぇか!」
俺がつっこむと「さすが切原くん!私もタマちゃんに貸していただくまで知らなかったジャンル名を知っているとは……!」と何故か感動される。いやいやいや、俺も詳しくねぇからな?ただ、ゲーム雑誌見てたら、最近は嫌でも目に留まるからだぞ?!
「乙女ゲームって何?」
「いや、俺も詳しくないけど。たしかギャルゲーの女性版というか……」
喜多が頭を傾げれば、室町が丁寧に答えていた。
そうだ。
そんなゲームをこの人数でやってどうするんだよ。馬鹿なのか、夢野はやっぱ馬鹿なんだよな。
「……馬鹿だな、やっぱ」
「きぃ!さっきから馬鹿馬鹿うるさいよ!神尾くんの馬鹿!」
俺の心の声を口に出したような発言をした神尾にひっそりと拍手した。
夢野は文句を言っているようだが、今ここにいるやつらは絶対に同じことを思っていることだろう。
「……えーと、つまり俺らがこのキラキラした男キャラクターを攻略するっつーことか?」
「そうそう!」
よせばいいのに、説明書を広げた桃城に夢野はニコニコしながら頷いている。
「……俺、用事思い出したんで帰りますわ」
「……あ、俺も帰ろうかな……」
「俺も帰る」
財前と伊武が扉のノブに手をかけたのを見て、便乗して夢野に背中を見せた。
その時である。
聞き捨てならねぇことをアイツが言ったのは。
「私の好みとしては、この人がオススメかなぁ。不二さんとか幸村さんみたいに優しい感じ」
「あ、本当だ。兄貴に雰囲気似てるかも……つぅか、お前こういうのがた、タイプ……なのか?」
帰ろうとしていた足を戻し、夢野が指さしている男キャラを覗き見た。
何故か財前と伊武も戻ってきている。
「……なんだよ、こっちの軽音楽部のヤツの方がいいじゃん」
「そのキャラ神尾くんみたいだから攻略したくない」
「てっめ、馬鹿夢野!俺もお前に攻略されたくねぇよ!」
ギャーギャー神尾ともめ始めた夢野をよそに、喜多がゲームを起動させ、石田がコントローラーを握っていた。
「やっぱバスケ部の先輩狙いだって!」
「おい、桃城。ソイツはてめぇみてーに頭ん中まで筋肉で出来てるタイプじゃねぇか。それより、さっき雨の中、捨て猫を拾ってやっていた不良が……」
「マムシみてぇに暗い男なんて好みに合わねぇなぁ、合わねーよ」
「なんだと、コラっ」
「ま、まぁまぁ……」
喧嘩を始めた桃城と海堂を放置して、夢野の指示通りストーリーが進んでいく。
「……うわぁ、この人!見てみて、若くんにそっくり!」
「……は?」
暫くしてから主人公の女の隣の席になった転校生の男キャラに対して、ひどく興奮した声で夢野が輪から外れていた日吉を呼ぶ。
「……あ、確かに日吉っぽいかも」
「ウス」
鳳と樺地も同意していたので、画面をチラチラみていたら、そのキャラはいわゆるツンデレキャラだった。
「……で、結局詩織はどれが好みなのさ」
すべてのキャラが出てきたらしいタイミングで、伊武がぽそりと呟く。
「……お、俺も聞きたいんだけど」
室町が続けば、夢野はうーんと大げさにうなり始めた。
「……強いて言うならば」
「お、おう」
ごくりと飲み込んだ生唾は妙にカラカラの喉を通り、気持ち悪い。
「このクラスメイトの佐藤くんかな」
「「モブじゃねぇか!!」」
盛大につっこんだ俺らは、つくづく夢野に振り回されている。
だけど不思議と笑っちまうぐらい気が抜ける一日で。
……きっともう、コイツから離れられない気がした。