これも思い出

「……、……(夢子、ここに行きたい)」

小太郎さんが両手で大事そうに持っていたチラシは、今年で何十周年かを迎えるテーマパークのものだった。
そのテーマパークの顔ともいえるキャラクターが恋人のキャラクターと笑顔をこちらに向けている。

「あー?風魔小太郎、またあんたはそんな俗世的なものを――」
「菊ちゃん!私も行ったことがありませんでした!行きたいですっ」
「――ですよねっ!やっぱり人生の節目節目にここですよ!夢と愛に満ち溢れた世界!お嬢にピッタリですから!!」

指で耳掃除をしていた菊ちゃんに正直な気持ちを打ち明ければ、熱く賛成してくれた。

「……いや、今菊チャン瞬間的に心変わりしたよねー」
「Ah,早かったな」
「そうですねぇ。明らかにめんどくさそうな顔してましたからねぇ……」

何やらぼそぼそと話し始めた佐助さんと政宗さん、光秀さんに菊ちゃんは家康さんが最近通信販売で買われたバランスボールを投げつける。

「わ、ワシのばらんすぼーる……っ!」
「てっめ、菊一!政宗様になんてことを……!」

それから家康さんが大事そうにバランスボールを抱きかかえて、小十郎さんが菊ちゃんに説教を始めた。

「……まったくいつもいつも騒がしいヤツらよ」
「まったくだね」
「ヒヒ、毛利、竹中。そこの茶菓子を取ってくれぬか……」

それを呆れ顔で元就さん、半兵衛さん、刑部さんが遠目から眺めていて、いつもの光景に私は目を細める。
……きっと、皆さんと一緒だと余計に楽しい気がしたのだった。





「こ、ここが……!なんという活気!く、お館様にも見ていただきたかったでござる……!」

「いやいや旦那。大将がいたら絶対二人でもの壊し兼ねないから。あはー、謙信公と二人で釣りに出掛けてくれて良かったよ」

「……あぁっ!なぜ謙信様のお側から離れて、こんな馬鹿共とこんな馬鹿げた場所に……!」

「おーい、かすがー。花をそこら中に散らすの止めてよねー。既に見世物だと思われ初めてんだからさー……」

もしゃもしゃとワゴン車で売られている甘味を片っ端から口にしては、テーマパークの雰囲気に興奮気味の幸村さんの首根っこを捕まえているのは佐助さんだ。
謙信さんに夢子を任せましたよと言われたかすがさんは、やはり謙信さんについて行きたかったのか苦悩の表情を浮かべて頭を抱えている。

「……いや、既に見世物だ。あんたらちょっとは普通にできねぇのか」

「……ごめんなさい。市の……せい」

「市!大丈夫だ!あのネズミが人のような姿を模している悪は私が倒す!」

「浅井長政ぁー!一人でヒーローショーみたいな動きすんなぁっ!あと、お市もその黒い影出すのやめて!ホント恥ずかしいからっ」

菊ちゃんは先ほどから皆さんへのツッコミに忙しいらしい。

「ふふ、菊一はいつも元気ですね、犬千代様」

「そうだなー、まつ」

まつさんと利家さんは既にキャラクターの帽子などを買われたりしているようで、一番このテーマパークを楽しまれているようだ。

「……(夢子)」
「夢子ちゃん!ほらっ」

私もあぁいうキャラクターものが欲しいかもと思っていたら、後ろから近付いてこられた小太郎さんと慶次さんのお二人に丸い耳の間に赤いリボンの乗ったカチューシャを頭に着けられた。
びっくりしましたが、すごく嬉しくてお二人の笑顔に笑い返す。

「ありがとうございますっ」

「ははっ、いいよ!さっ、ほら折角なんだから楽しまないと損だぜ!」

「そうだぜ、honey!Let's enjoyだ」

「政宗様……っ」

慶次さんが差し出してくださった手を握り返したら、メリーゴーランドにて腕を組んでファンシーなゾウに跨っている政宗さんが目に入った。
私の斜め後ろで小十郎さんが目元を拭っていらした気がするが、気のせいだと思うことにする。



「……夢子!ふぁ、ふぁーすとぱすとやらを貰ってきた」

「あ、これ人気アトラクションの!ふふ、三成さんありがとうございますっ!これで時間短縮できますねっ」

「……っ!」

「……ヒヒ、三成。顔が真っ赤だぞ。やれ愉快ユカイ」

それから皆さんと様々なアトラクションに乗ったりして、あっという間に時間が過ぎていく。



「……なぁ、元就。お前ずっと何書いてもらってたんだよ」

「ふっ。奴らの名を集めていたのだ。我は一緒に写真も撮ったのだぞ」

ジェットコースター系のアトラクションを何度も乗っていらした元親さんとは対照的に、元就さんはキャラクターたちのサインなどを集められていたようだ。

「は、半兵衛様は楽しまれましたか?」

「あぁ、三成君。僕は僕でぱれーどとやらやしょーというものを楽しんだから問題ないよ。今から行われる最後のぱれーどとやらも楽しみだしね。……まぁ、夢子君の笑顔を見るのが一番楽しいけれど」

さらりと私に微笑まれた半兵衛さんは不意打ちです。カァッと上がった熱にまともに顔が上げられない。

「……それにしても、光秀は途中からどこにいたのだ?」

「ふふ、私は日陰で休んでいたんですが……何故か他の遊びに来ていた方々に悲鳴を上げられては逃げられていましたよぉ」

「……なに素敵な思い出作りに来た人間にトラウマ植え付けてんだよ、変態」

家康さんの疑問に答えた光秀さんを菊ちゃんが勢いよく頭を叩いていた。

それから暫くしてキラキラ輝くフロートが登場して、すごく綺麗なパレードが始まる。

「Oh,beautifulだな……」

呟かれた政宗さんの台詞にコクコクと首を縦に振った。
……とても素敵な一日で。
知らず知らずのうちに零れた涙は、皆さんに気づかれる前にそっと拭いました。





「……そういえば官兵衛さんはどうされたんでしょう?」

「……ヒヒ、暗ならあそこよ」

「「はっ?!着ぐるみんなか?!」」
「ど、どどどういうことでござろうか?!」


(小生がどうしてこんな羽目に……なぜじゃあぁあっ!!)

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