これは、もしものもしも

※三船という苗字はもしも不思議〜の設定のまま新テニ編に突入した時のことを考えて、流夏ちゃんの苗字にしていました。が、あくまで今回はもしもの話ということで、軽い気持ちでお読みいただければ幸いです。






――流夏ちゃんの叔父さんである入道おじさんに頼まれて、届け物を手渡しにテニスの高校日本代表合宿とやらが行われているところに向かったら、そこには何故か中学生のテニス部のみんながいたのだった。


「いやぁ、素敵な演奏毎朝ありがとうございます〜」

「……あ、えっと」

「ハイ!齋藤でーす」

私を覆う縦に長い影に戸惑っていると、にこやかに名乗られた。
いや違うんです。齋藤さんの名前はもうばっちり覚えていますとも。

「ただ身長があまりにも驚異過ぎるんだよね」

「あ〜驚異ですかぁ」

もうこの合宿所に何故か流夏ちゃんと共に居座ることになって早三日。
とりあえず、私の独り言に苦笑している齋藤さんにペコペコと平謝りしてから、その場を逃げ出す。
食堂に行けば流夏ちゃんが優雅に跡部様とコーヒーを飲んでいた。
……財力だ。

「ふふ、おはよう。夢野さん」

「あ、おはようございます。幸村さん……」

穏やかな笑顔を浮かべ、私に近づいてくださった幸村さんに少しばかり緊張する。
信じられないことだが、この神々しいまでに麗しい美少年の幸村さんは私のことを好いてくれているらしいのだ。
はっきりとご本人の口から言われたので、私の思い上がりとかでは断じてない。
……しかも私がうやむやにしてしまっている状況なので、余計に緊張する。

「あぁ!夢野ちゃん、こんなところにいたんだね!」

不意に背後から声をかけられたと思ったら、高校生の人たちの中でも、一番仲良くなれた入江さんだった。
入江さんはテニスの合宿所にまでテナーサックスを持ち込むぐらいの人で、もしこの場に十次くんがいたら話が合うんじゃないかと思う。いや、入江さん変わってるからやっぱり十次くんの胃に穴があくかもしれないけれど。

「何かありましたか?入江さん」

「あ、奏多さんって呼んでっていってるのに。君と僕の仲じゃないですか……なぁんてね!」

「入江さん」

とりあえず、隣の幸村さんが怖いから入江さんの人をからかう芝居に付き合っている場合じゃないと頬を膨らませて少し怒ってみた。
頼むからこの中学生のみんながいる前で、変なことを口走らないで欲しい。あくまで私は、この一年両親を失った寂しさを消してくれたみんなを応援している側なのだ。

「あはははっ」

だというのに、何故か入江さんは楽しそうに大笑いしてから、ふにふにと私の頬をつまんできた。
まさか高校生の人にそんなことをされるとは思っていなかったので、一気に顔に熱が集まる。

「うわぁあん、流夏ちゃんヘルプミー」

「はいはい。申し訳ありませんが、いい加減この子をからかうのやめてもらえますか?」

「ふふ、ごめんね。夢野ちゃんって可愛いから。……っと、徳川が彼女を呼んでたんでした。僕は伝えたからね」

幸村さんや他のみんなの視線にも耐えきれなくなって流夏ちゃんのところに逃げ込んだら、跡部様が盛大にため息をつかれた。

爽やかに笑い去っていく入江さんの後ろ姿を見送る。
ちくしょう、私の胸のときめきを返せ。


「……ねぇ。詩織センパイさ、昨日夜中に徳川さんと二人で並んで歩いてたよね?」

「……え?あ、あぁ……歩いてました、ね」

徳川さんが呼んでいる理由を考えようとしたところで、リョーマくんが近くにやってきて、けっこうなボリュームでそう言った。
「なんやて?!」と一際騒がしくなった四天宝寺の皆さんをできるだけ見ないようにしながら、リョーマくんに何か恨みでもあるのかとか、もしや高校生の人たちのスパイだとでも思われてしまったのかと焦る。

「……昨夜は寝れなくて、たまたま練習していた徳川さんとばったりお会いして……それで部屋に送っていただいただけなんだけども」

「……Really?」

ウザー王子こと蔵兎座くんにまで睨まれたのはしゃくだが、はっきりとイエス!!と答えておいた。



「……夢野さんが無意識なんはいつものことじゃき。……今の問題は徳川の方じゃ」
「少なからず好意を抱き始めている確率82パーセント」
「82.5パーセントだ。貞治」
「んふっ。とりあえず、先ほどの入江さんといい、高校生組にも注意が必要なようですね」
「……ったく、手間のかかる女だぜ。俺様がみとかねぇといけねぇじゃないの」
「跡部ー!俺、今日から詩織ちゃんの部屋で一緒に寝るCーっ」
「……伊武。とりあえず、室町に連絡やな」
「……はぁ。どっちの立場にしろ精神的にしんどいよなぁ。俺が病んだら詩織のせいだろ……絶対そうだよね」
「負けてらんねぇなぁ、負けてらんねーよ!」
「……ふしゅうぅ」


なんというか、彼らの話しは何も聞こえなかったが、流夏ちゃんが爆笑して転げ回っていたのをみて、とりあえず楽しそうで何よりだと思った。

何か言いたそうな裕太くんと切原くんと目があったが、徳川さんが呼んでいるらしいので会釈してからその場を離れたわけである。

…………壇くんたちと帰れば良かったかもしれないとぼんやり思いながら。

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