何やら色々疲れました
――朝食にしようと菊ちゃんと共に襖を開けたら、大変なことになっていました。
「……えーっと、旦那らどうなってるんだっけ?」
真剣な面持ちでそう尋ねられた佐助さんは、表情とは裏腹に体を小刻みに揺らし、必死に笑いをこらえておられるようだ。
「だーかーらぁー!目が覚めたら、こうなってたんだよ!あー、昨日あれか?調子に乗って飲みすぎたか?飲み過ぎてひどい目に合ってから控えてたのに……あぁ、チクショウっ」
先ほどから大声で叫んでいるのは銀さん……と言いたいのですが、松永さん。いえ、松永さんの姿になった銀さんですが。
「卿は少し落ち着きたまえ」
「……中身、松永だってわかっていても真剣な表情でなおかつ腹黒そうな笑みを浮かべている黒田は気持ち悪いな」
「うるさいわっ!菊一っ、小生だって……何故じゃあぁあっ」
「黙れ、暗よ。われの顔で情けなく泣き喚くな。ひ、ひひ、ヒャハハっ……!」
「ひぃっ!!小十郎殿がお壊れに……っ」
突如怪しい笑い声を上げた小十郎さん(中身は刑部さん)に幸村さんが恐怖を覚えたらしく、私に抱きつかれた。
それを静かに引き離しながら、今までにないくらい真面目な顔をしている銀さん――いや中身は小十郎さんがため息をつかれる。
「……まったくいい加減にしてくれ」
「coolじゃない小十郎を見るのも面白いがな」
「政宗様っ」
銀さんの顔で凄まれて、政宗さんはまた吹き出しそうになっていた。
……中身が小十郎さんになっただけで、本当に頼りがいのある男性に見えるから不思議です。
「夢子さん、僕も同感です」
「銀ちゃん、このままの方が幸せかもしれないネ」
「いやぁあっ、新八くぅん?!神楽ちゃあんっ?!見捨てないでぇええ、お願いっ、銀さん、このままは嫌だぁあ」
泣き崩れる松永さんというなんともいえない妙な姿につい苦笑する。
そんな私の肩をちょんちょんと指先でつついてこられたのは、小太郎さんだった。
「……小太郎さん?」
いつもと雰囲気が違う気がして首を傾げれば、小太郎さんは唇を尖らせたまま、私の肩を抱き寄せられる。
「死ねっ!」
ガンっと物凄い音がしたと思ったら、天井から桂さんが降ってこられると同時に小太郎さんに蹴りを落とされたようだった。
「こ、小太郎さん、大丈夫ですか?」
「……俺の身体だ。それほど柔じゃない」
「…………え」
桂さんの口から出たセリフに目が点になる。
ふんっと鼻を鳴らし腕を組んでいる桂さん。だけどその姿は小太郎さんそのもので。
【いやすまぬ。夢子殿が俺の名を口にし、見つめられるもので。ついくらくらっと】
エリザベスさんがよく使われているプラカードを掲げられた小太郎さんはきっと中身が桂さんなんだろう。
「ついくらくらっとじゃねぇよ!お嬢の大切な唇汚されてたまるか!つか、何?つまり小太郎同士で入れ替わっちゃってるわけ?いやもう……あんたらややこしいわ」
菊ちゃんが頭をかかえて私の隣に座り込んだ。
「……菊一の言うとおり、頭が痛くなる興よ。どうせなら、鬼とそこらの野良猫が入れ代わった方が愉快よ」
「おいっ、なんでそこに俺なんだよ?!」
元親さんが元就さんにつっこまれるが、相変わらず元就さんは涼しい顔で無視されている。
「……こほん。それで、この入れ代わった面子が昨晩飲んだのはこの酒かい?」
「半兵衛様っ、原因を……?!」
半兵衛さんが眉間に皺を寄せながら、床に転がっていた一升瓶を抱えられれば、三成さんが感嘆の声をあげられる。
同時に銀さんたちが静かに縦に首を振られた。
「……いや、誉められても嬉しくないんだけどね。だってほら」
「おやぁ、【乱交】ですかぁ……何やら下品なお名前ですねぇ」
ゆらゆらと光秀さんが体を揺らしながら可笑しそうに笑われた。
「……っていうか、その横に【心と体が入れ替わっちゃうかも?!】とか書いてるんだけど」
「……はははっ。夢子、この面子は放っておいて買い物でもいこうか」
「え、あ、はい……」
慶次さんの呆れた声と家康さんの妙に明るい声が静まり返ったその場に響いた。
後ろを振り向けば、必死に「違うんです!この小十郎、断じて自ら飲んだわけでは……!」と政宗さんに必死に弁明している銀さん(中身小十郎さん)の姿と、神楽ちゃん、新八くんに「最低ですね」「もっとも低いアル」と蔑まれて涙目の松永さん(中身銀さん)やら混沌としていました。
刑部さんを笑いながら、踏んづけている小十郎さんの姿とか、どう頭の中で処理したらいいのかわかりません。
「……あはー。俺様も夢子ちゃんと逃げようかなぁ。っと。でもこのお酒一体どこから――」
「あぁ、それはぁ……真撰組の沖田さんとやらの差し入れですよぉ。彼のおかげで非常に楽しい気持ちになりましたねぇ……フフフ」