はじめてテニス

「せ、拙者にぜひテニスを教えてくだされ!」

休日、二年生だけで親交を深めようとストリートテニス場に集まったみんなに気合いを入れて頭を下げたら、樺地くんがすごく心配そうな顔で私の額に手をおいた。

「……ウス。……熱は、ありま……せん」

ふるふるとみんなに振り返りながら首を振る姿にいらっとする。
樺地くんを借ります!と宣言した時に「……二時間だけ許す」と偉そうに鼻で笑った跡部様よりもいらっとしたのは間違いない。

「樺地くんの馬鹿ー!私は真剣に頼んでいるのにひどいよ!!あと、他のみんなのその顔もムカつく!私は何か天変地異が起こることでもいいましたかね?!」
「まぁまぁ、夢野さん。落ち着いて。……ほら、今まで夢野さんがテニスしたいなんて言ったことなかったから……」

鳳くんが興奮した私を落ち着かせるように優しい口調でそう言った。
確かに興奮しすぎたかもしれない。反省しなければ。

「……やっぱり、友達が好きなものは興味出てくるというか。みんながすごく楽しそうなんだもん」

「……夢野さん」

あえて友達と恐る恐る口に出したのは、休日にまでみんなのところにお邪魔させてもらっている上での確認というか。もしこれで友達という認識されてなかったらどうしようという不安というか。

「ははっ、そうそう!テニスはすごく楽しいものだぜ!なぁマムシっ」
「……ふしゅうぅ。……やりたいならやってみたらいい」

笑って背中を叩いてくれた桃ちゃんに痛みよりも先に嬉しさがこみ上げてきた。
ふんっとラケットを差し出してくれて、貸してくれるらしい薫ちゃんにもニヤニヤしてしまう。

「わぁい!薫ちゃんの汗と涙と血潮が染み込んだラケット、大切に使用させていただきまするっさぁ今から私は薫ちゃんだ。ふしゅうー」
「ちょっと待てこら」

真似したら怒られた。
とりあえず若くんと鳳くんにラケットの基本的な振り方を教わっていたら、天根くんがダジャレを口にしながら不動峰のみんなと近づいてくる。

「準備体操した方が筋肉痛にならないと言いたいそう、です。ぷっ」
「…………つまらないんだけど。あーなんでこんなダジャレで言いたいこと言われなきゃいけないんだよ」
「ま、まぁ。とりあえず、急に動かしたら体がびっくりするだろ?」

深司くんは機嫌が悪そうだったが、神尾くんが何やら空気を和ませようと必死だったので、準備運動だとみんなと一緒に柔軟体操をした。
指は器用に動かせるのだが、基本的に体が固いのでちょっとしたことで痛い痛いと悲鳴を上げていたら、森くんに爆笑された。彼は笑い上戸なんじゃないだろうか。それとも、私の何かが彼のツボにピンポイントでハマっているのだろうか。

「ここまでなら大丈夫そうかい?」
「う、うん。ありがとう、鉄くん」

やはり鉄くんは普通に親切である。彼のおかげでなんとか柔軟をやり過ごすことができた。

「とりあえず、球打ち返してみろよー」
「お、おう!さぁこい!桃ちゃん!!」
「よっしゃ!……ドーンっ!!」

……桃ちゃんは鬼だった。とりあえず腰がへなへなと抜けてその場に座り込んだら、切原くんと光くんが勢いよく「あ、アンタはアホか!!」「詩織に何さらしとんねんっ」とツッコミをいれているようだった。

「だ、大丈夫か?夢野……っ」
「俺が打ち込むから安心しろ」

裕太くんと十次くんが駆け寄ってきてくれたので、桃ちゃんには悪いけれど二人にお願いすることにする。
切原くんと光くんも名乗りを上げてはくれていたが、なんとなく切原くんは桃ちゃんの二の舞になりそうな予感がするし、光くんの性質がS属性なのは理解しているので遠慮した。


「よし!気合いを入れ直して、十次くんお願いしますっ」
「あぁ!」

「夢野さん、がんばれ〜」

のほほんとした喜多くんの声に癒されながら、ぐっと薫ちゃんから借りたラケットのグリップを握った。

なんとなく、薫ちゃん的エネルギーを吸い込んで今ならスネークすら出せる気がする……!


「とぉっ!」


「…………ぶっ」

まず、森くんが吹き出した声が聞こえた。
コロコロと黄色い球が私の背後で転がっている。……一体どういうことだ。いやわかってる。だって大好きなあのボールを返す音聞こえなかったもの。むしろ、感触すらなかったもの。

「……見事な空振りだな」

若くんが頭が痛そうに額を覆ったところで、みんな我慢できなかったのか一斉に笑い出した。
いや、森くんだけははじめから笑っていたが。


「つ、次だよ!次、お願いします!」
「あ、あぁ……」

十次くんにお願いしてもう一度チャレンジしてみる。

「だ、ダメだったー!」

なんて難しいんだ!
大体こんなラケットの面でボールを打つこと事態が無理難題なんじゃないのか!

「……いや、俺らそれをやっとんのやけど」

光くんのツッコミなど聞こえない。とりあえずもう一度だとチャレンジしてみようとしたところで「……か、体の向きなんだけど」と誰かから声がかかった。
裕太くんと同じルドルフの金田くんである。

「……ほら、こうして。真っ直ぐ……タイミングは……今!」
「あ」

この運動音痴に見かねたのか、駆け寄ってきてくれた彼は、後ろから寄り添うように立ってくれて、ぎゅっと一緒にラケットを握って打ち返すタイミングを教えてくれた。

そのおかげで綺麗に放物線を描いた球は、十次くんと裕太くんの間に落ちる。
何故打ち返してこなかったかは、彼らがぽかんとした顔で固まっていたので、たぶん私がまさか打ち返せるとか思わなかったというところだろう。

「わ、わぁい!!ありがとう、金田くん!何かコツが掴めた気がするっ」

「い、いや、それならよかった……」

密着していた恥ずかしさもあったが、素直に感謝すれば金田くんは困ったように笑っていた。……何やら金田くんのこの笑顔可愛らしい。ときめいた。





「……なんやろ、めっちゃ不愉快っすわ」
「……ていうか、急に出てきておいしいとこ取りだよね。なんだよ、面白くないなぁ……」
「……あっちが正解だったのか……はぁ」

とりあえず、妙に光くんと深司くんの機嫌が悪くなったのと、十次くんが落ち込んでいたような気がするけれど、なんとか五球のうち三球は打ち返せるようになった私は上機嫌だった。

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