馴染めるのか前途多難

――何故か遠い親類の渡邊オサムというおじさん……いや、お兄さんが私の保護者となり引き取ってくださったのだが、いかんせん大阪在住の方だった。
エスカレーターの歩行側が左右逆だったりと色々悩まされるが、一番の悩みどころは言葉だ。

「で、詩織ちゃんが通うんは俺が教師やってる四天宝寺中になるんやけど……って、自分、ちゃんと聞いとるか?」

「……え、自分で話してるんだから自分は聞いてるよね?ん、あれ?」

「ちゃうちゃう。自分ってのは自分のことや」

ぴんっと鼻の頭を指で弾かれてから、やっと自分というのが相手を指していることに気づいた。
耳慣れない関西弁に戸惑いながら、私は適当に相槌をうつ。

そうこうしている内に時間はすすみ、ついには転入して初登校の日がやってきた。
手に汗をかきすぎるほど緊張してたまらない。
きっと今なら空をも飛べる。

「あ、ああ、あいきゃんふらい!!」
「自殺はおすすめせんばい」
「むあっ?!」

転入の書類などの関係もあり、通常よりも朝早く学校に連れてこられた私は、ホームルームとやらが始まるまで屋上に隠れていることにしたのだが、どうやら先客がいたらしい。
そしてさっきの独り言を屋上のフェンス越しに発してしまったのがいけなかったのか、何故かお腹のあたりに手を回されてがっちりホールドされてしまった。
いや、勘違いさせてしまったのは謝るが、なんだこの浮遊感。私はぬいぐるみか。

「あの、すみません、そういうつもりじゃないんです。なんというか、気合いを入れようとして、その時頭に浮かんでいた台詞を口に出してしまっただけなんです。だから離して下さい。私を地球におろしてください」

ぷらぷらと足を動かしてみる。なんてデカい人なんだ。というか、年齢の近い男の子に抱き抱えられているとか恥ずかしすぎる。

「おい、千歳ー。見つけたでー。朝練始まった途端からどこほっつき歩いとんねん」

「あー、謙也。むぞらしか子捕まえとっとー」

「捕獲生物扱い?!」

というかこの人、関西弁じゃないよね?何言ってるかちょっとわからないんですけども。
そして新たな来訪者とかどうしたらいいのだ。いやむしろ、一体なんなのこの状況。


「うわ、なんや女の子やないか!……ってあんま見たことない子やな」

「すみません、金髪の先輩。私は今日二年七組に転入する夢野詩織と申します。……とりあえず助けてください!」

顔を両手で覆ってみたが恥ずかしさが消えることはなかった。
金髪の先輩(たぶん私を宙に浮かせている人も先輩)は慌てて下ろすよういってくださる。なんというか雰囲気が男前だった。

「ありがとうございますっ」
「いや別にええよ。それよりもうちの千歳が迷惑かけたなぁ」
「まるで悪者扱いたい。心外ばい」
「もうちょっとで誘拐犯じゃ、アホ!」

不服そうな背中にばしっとツッコミしている金髪の先輩をみていたら、不意に私を見て満面の笑みを浮かべてくださった。

「あぁ、そや。俺は忍足謙也。で、こっちが千歳千里な。……二年七組やったら、うちの部の後輩がおるさかい、仲良くしてやってな!」
「は、はいっ」

キラキラした人だなと少しときめく。
……こんな素敵な人が先輩なのだ。その後輩くんとやらも素敵な少年に違いない。ぜひお友達になってもらおう。





「夢野の席は窓側の一番後ろなー。財前、仲良うしてやってくれやー可愛えぇ子やろー」

「うるさいっすわ、先生。俺は財前光。謙也さんと千歳先輩が言っとったんって自分やろ」

「は、はうあ!」

「は?」

「……うわ、どうしよう。返事と驚きが混じった変な声出してしまった。でも、ピアスたくさんしてる、不良じゃないの?あ、いや、忍足先輩も金髪だったけれども……っ」

「…………先生ー、こいつ独り言大きいんですけどー。どうしたらええっすかー」

「……とりあえず、ピアスとれー、財前ー」

「それは無理っすわ。俺、生まれた時からピアスしとったんで」

「え!マジですか?!」

「嘘に決まっとるやろ。アホちゃうか」

「よし。お前ら二人とりあえず静かにする気がないなら廊下に立っとけー」

わかったことは、笑顔でそう言った先生が本気で怒っているということだけである。

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