これは忘れぬ

「ちゃうねん、ドッキリやドッキリ!」
「だから俺はやめようって言ったよな?……あーあ、どうするんだよ……いや結局は俺も共犯なんだけどさ……」
「本当にごめん!」




――とある夏の日、チャットメンバーで遊ぼうと連絡が来た。
暇な私としては、有り難いお誘いだと二つ返事で喜んだわけである。

何を着ていこう。
というよりも、女の子は私一人か!どうしよう、あんな素敵ボーイズを独り占めしていいというのだろうか。後で天罰当たったらどうしよう。
もう考えただけで胃が痛い。

そうこうしている内に当日になり、流夏ちゃんに相談するもまともな返事は返ってこなかった。
だからいつも通り、パンダリュックを背負って遊びに行くことにしたのである。
唯一のお洒落は、タマちゃんに貰ったお揃いの髪留めくらいだ。



「ご、ごごご機嫌よう?!」

「え!どうした?!」
「……室町、今のは触れたらあかんとこや」
「そうだな。夏だから、暑さに脳がやられたんだろ……まぁ前からな気もするけど」

「総じてひどい!!」

そんなこんなで待ち合わせ場所の遊園地についた。
三人とも性格が表されているような服装で、なんというか普通にかっこいい。……くそう、この人たち本当に中学生か。
真田さんや手塚さんを見ていた時は、三人とも中学生に見えていたが、冷静に見たら、やはりこの三人も中学生には見えない。

「……何?」
「このサラッサラが憎い!!」

とりあえず目があった深司くんに八つ当たりしておいた。



その後は、絶叫系を中心にアトラクションを巡った。死ぬかと思った。やはり乗り物は足が震える。すごく緊張した。

混んでいたにも関わらず比較的スムーズに回れたのは、十次くんがあらかじめネットで調べて計画を立ててくれていたからだと思う。

「……そして今私には難関が待ちかまえている……逃げちゃダメだろうか」

「あかんに決まっとるやろ、アホ」

独り言に丁寧にツッコミを入れてくれた光くんを横目で見ながら、私は深呼吸して目の前のおどろおどろしい病院らしき建物を見上げる。
あぁ、若くん連れてきたら目を輝かせそうな場所だ。……本気で逃げたい。

出口に到達するまで五十分はかかるらしい本格的なお化け屋敷である。

そして逃げることもできないまま、私たちはお化け屋敷の中に入ることになった。
恋人同士とかならやれるんだろうが、いかんせんチャット友達の男の子たちに手を握らせてくれと発言できない。せめてその上着の端っこを掴ませてください。いやもう、鞄でもいいんで!

「ひぃ!ぎゃあ!のわぁあっ?!」

もっと可愛い悲鳴をあげたい気持ちもあるがそんな余裕がない。
そして、逃げ回る内に事件は起きたのだ。

「…………え」

暗い手術室か何かのカーテンをめくって進まなきゃいけない場所があったのだが、気づけば私は暗闇の中独りだった。
慌てて見回しても、三人の姿がない。

「深司くん、光くんっ、十次くん?!」

精一杯叫んでも返事はなく、変わりにお化けの脅かし役の人に追いかけられた。
ぎゃあああっと逃げ出したら廊下みたいなところで転ける。お化け役の人は来なかったけど、三人の姿はどこにもなくて、他のお客さんの姿も見えず、ついに涙がポロポロでてきてしまった。
なんというか、お恥ずかしい話だが本気で怖かったのである。
もう立ち上がれないくらい腰が抜けてしまったのだ。

やがて地面に倒れたまま号泣してしまい、鼻水が床にたらりと垂れた頃、三人が冒頭の台詞を吐いて姿を現したのだった。


…………とりあえず、深司くんのシャツで涙と鼻水を拭いて、お化け屋敷から無事に脱出した後、光くんにはエルサイズのジュース、十次くんにはホットドッグをおごってもらった。
暫くこのことは根に持ってやるとひっそりと誓ったのである。

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