パンダに恩返し
――私は今、深く悩んでいる。それはもう、マグマに到達できるぐらい深くだ。
「……一体なんだ、このシュールなロゴTシャツは」
いつぞやのポクポン人形のお礼だと、テニス部のみんなから頂いたダンボール箱に目眩を覚えた。
何故かダンボール箱の中にはわんさかとTシャツが入っている。これがまた本当に大量なのだ。
しかも一つ一つ、ロゴが違い、そのロゴがまたシュールな言葉だったりする。
例えば、滝先輩からは《世界征服》だったり、大石さんからは《卵王子》と書かれたものだったり、丸井さんのやつは《腹減った》である。
これ着たら、私完全に常時はらへりな飢えた子じゃないか。いつから私に大食いキャラが定着した。
《下剋上等》の若くんや《俺様の美技に酔いな》の跡部様にも頭が痛くなるが、《絶頂》と書かれた白石さんTシャツが一番嫌だ。もはや嫌がらせレベルである。白石さんは、私がこのTシャツを本気で着ると思っているのだろうか。……いやまぁ、せっかく頂いたので寝間着には使用するかもしれませんが、絶対使ってることは口が裂けても教えまい。
そんなことを固く心に誓ったところで、どうして私が今悩むことになっているかには、理由がある。
《腹筋崩壊》と書かれた東方さんのTシャツを細目で眺めながら、先ほどのやりとりを思い出した。
「いいか、詩織。自分が一番これや!と思ったTシャツを着てくるんやで?」
「一番気に入ったやつだCー!マジマジ俺の最強だもんね!」
《白玉善哉》の光くんの隣で笑っていたジロー先輩はたしかにいい線までいっている。
パンダと書かれているように見えるロゴだ。だが、惜しいかな。この綴りではパンダではない。これは、天根くんあたりが好むダジャレである。
天根くんで思い出したが、六角中の人たちは《寒中水泳》や《海水浴》《潮干狩り》やら総じて海に関することだったが、葵くんだけ《ダーリン欲しいっちゃ》とかいうものだった。あれか。私が飢えているように見えたのだろうか。……ショックだ。
「……んぅ、不二さんの《サボテン部》が一番マシな気がする……けど」
扉の向こうで待っているであろう、テニス部のみんなに焦りつつ、かっと目を見開いた。
これだと決めたのである。
切原くんの《アンタ、潰すよ》とか石田さんの《南無阿弥陀物》とかTシャツに文字がびっしり書かれている、もはや呪いとしか言えない深司くんのTシャツをそっとダンボール箱に返し、掴んだ一枚のTシャツを着た。
「お、出てきた!」
「遅かったじゃん!」
桃ちゃんと岳人先輩の出迎えにびびりながら、みんなの前に歩いていく。
「……む、俺のではないな。計算外だ」
「あー、アンラッキー……」
まず柳さんと千石さんがひどくがっかりされたが、私ははっきりと言うことにした。
「……現在の私の心境です」
《貴様ら、けしからん!》
「……んふっ、心境を表したとは……予想外でしたよ」
観月さんが肩をすくめたのを見ながら、私はこの真田さんTシャツは意外と重宝しそうだと密かに思ったのだった。