めげずに恋せよ乙女!

聖ルドルフ学院中学校


「うわぁぁぁん……っ!」

私はその日──同じクラスになったはずの不二裕太くんが転校してしまった日、涙が枯れちゃうんじゃないかってぐらい号泣した。

小学校の頃からずっと一目惚れで、大好きだった別クラスの彼。
中学生になってやっと──

「やっと同じクラスになれたと思ったのにぃーっ!!」

しかも何かの奇跡が起こって、私の席の前が裕太くんという!
普段は後頭部を眺め放題だし、プリントが回された時に、振り向いてもらえるという超美味しいポジションだったのに……!!

神様、ひどい!
私のこと嫌いなの?!

本当に一週間ぐらい運命の女神とやらを怨みに怨みまくったものだ。


だが、私は私のこの長い恋をこんな運命のイタズラで終わらせるような女ではないのだ。

「明日、絶対にこの手紙を私に行くんだからっ」

メラメラと燃えながら、私は渾身のラブレターを握り締める。
裕太くんへの想いを綴ったその手紙は、他の誰かの手に渡ったとしたら確実に死を覚悟するほど小っ恥ずかしいものだ。

色んな意味で緊張である。




「ゆ、ゆ、ゆ裕太くん!!」

「ん?」

ルドルフ学園の正門前で、外に走り込みに来た裕太くんに声をかけた。
もう口から心臓が飛びててしまうのではと思うぐらい緊張していたが、裕太くんが振り向いてくれたら、飛び出るよりも前に鼓動が止まった気がする。

「……あれ?お前は……」

「あ、うん!お、お久しぶりです、同じクラスだった本野悠希だよ!」

「やっぱ本野か!どうしたんだよ、こんなとこまで来て」

白い歯を見せて爽やかに笑ってくれた裕太くんは、本当に前とまったく変わらない。
いや前よりもずっと男の子らしくて、カッコよくなってる……!
ラブレターをぎゅっと握りしめた。

「あぁぁ裕太くん、裕太くんが好きです本当に大好きです、私と付き合ってくだっしゃいっ!!」

──しゃい?!

変なところで噛んだ。いや変というより肝心な場所で噛んでしまった!
死にたい!!

しーんとして何も言わない裕太くんの存在が私の胸に痛い。

あぁあ、何これ、恥ずかしい。っていうか、私の手の中にあるラブレターはどうするの??あれ?私って恥ずかしくて告白できないからって、ラブレター用意したんじゃなかったの?なんで勢い余って告白してるの?こんな人通りの多い正門前で!

「……えっと」

恐る恐る顔を上げたら、目の前にいた裕太くんはめちゃくちゃ真っ赤で。
ポリポリと自身の頬をかく仕草ですら可愛いカッコイイ!!
こんな表情の裕太くんが見れるなんて、本当にありがとう!勢いだけのアホな自分よ!

「い、いきなり、こ、困っちゃうよね!わかるぅ、私も困ると思うし、いや、あの、ほんと……」

ごめんなさいっと紡ごうとした私の口はそれ以上言葉が出なくなった。
ギュッと裕太くんに掴まれた手首が熱い。

「……俺で良かったら、その、よ、よろしく!」

吐き捨てるようにそう言ってから「練習行ってくる!」と駆け出した裕太くんの背中を見送る。

ぶにゅっと自分の頬を抓ったら、痛かった。

「あは、あはは、夢じゃない〜……」

拍子抜けしたら、その場で座り込んでしまって、外周一周してきた裕太くんに「うわ?!」って叫ばれたのだった。
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